第一幕 文明人のテーブルマナー Ⅴ
的場先生は結局、『担任宅での補習合宿』という名目で姉貴を丸め込むことに成功した。『風紀についてはご心配なく。私が責任を持って監督します』とのことだったが、『妹をファックしていい』と屋敷で公言していたのを俺はしっかり覚えている。
英語の単位が危ない、と言われては保護者の姉貴としても黙るしかなかったのだろう。的場先生は新任教師である姉貴の指導も担当しているので、さすがの姉貴も派手な抵抗はあきらめたようだ。姉貴は
アパートで制服に着替えた俺は替えの服と日用品をボストンバッグに詰め、通学用のリュックを背負って学校へと向かった。大荷物を手に的場兄妹と並んで歩く俺は、学校に向かう生徒の好奇の視線にさらされていた。
「しかし良かったな。これで貴様の身柄は、ドメスティックバイオレンスを呼吸するかのように行う姉上のもとから、桃色のただれた脳細胞を誇る『
「……五十歩百歩って言葉をご存じですか、先生」
しかも『いけない先輩』のほうは絶賛発情中だ。たとえるなら俺は、飢えたライオンのオリに放り込まれたウサギのようなものだろう。ため息をつく俺に、先輩が横からそっと耳打ちしてきた。
「潤、せっかくだから『いけない先輩』がいいコトを教えてあげるわ。――今日ね、危ない日なの」
ええ、そんなことはとっくに知ってます。十六年間守り通してきた俺の貞操が危ない日です。
「その……そういうことは、ちゃんと婚姻届出して、社会的な既成事実を作ってからするべきだと思います」
「そんな顔をしないの、冗談よ。ふふ、潤ったらおませさんね?」
「……からかわないで下さい」
きっと俺は今、不愉快そうな表情を浮かべている。それを先輩に見られたくなくて、自然と足が早まっていく。
「あ――待ちなさい、潤」
間一髪で青信号をつかまえ、校門の前の横断歩道を渡りきる。正面にそびえる七号館の時計は八時二十分。一時間目が始まる、ちょうど十分前だった。
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