第3話 手術

手術日まで集中治療室での生活は何もなかった。ただ機械を埋め込むまでは心臓に異常はないか心電図を24時間モニタリングされていた。体は元気なのにベットの上だけで過ごさなければならなかった。もちろんテレビもない。初めて病院の食事を食べたとき、以外と美味しいなと思った。食事制限がないので味付けも普通だし、こんな状況では食事しか楽しみがなかったからそう感じたのかもしれない。

手術前日、主治医から説明があるので嫁と二人で聞いた。手術は順調にいけば2時間くらいのものだが、ICDから2本のリード線を心臓に直接繋ぐため、起こりうる可能性のある最悪の事態の事例をいくつも聞かされた。背中に汗が流れるのを感じた。ますます不安になる。最後に主治医に質問した。「この手術何回やったことありますか?」という質問に「ペースメーカーも入れると200くらい」という答えに安心した。

手術当日、朝9時頃に看護師が迎えに来てくれて車椅子で手術室に向かった。そこは冷んやりしていて医療機器の電気系の音がしていた。ベッドに寝かされ白衣を着た目の部分しか表情がわからない大人達に囲まれた。手術は胸の部分の局部麻酔のため、顔部分は囲われてるが話し声や胸部以外の感覚はある。こんな恐ろしい経験は初めてで涙が出てきて泣いてしまった。「大丈夫ですか?」という声に「無理です」とはっきり答えた。

その後、安定剤を入れられたらしく体がじわっと暖かくなりフワフワ浮いてる感じで頭がボーッとして気持ちよくなった。でも局部麻酔なので胸部を引っ張られたり押されたりという気持ち悪い感覚が続いた。

最後に植え込んだICDの作動実験のため完全に眠らされた。ICD作動の衝撃を感じてしまうと、今後ストレスになるためと聞かされていた。

目が覚めると手術が終わる頃だった。問題なく手術ができたと言われた。安心して清々しい気分になったが、この恐怖を数年に1度味わうことになるんだと気持ちが沈んだ。このICDは電池の残量が少なくなってきたら植え替えをしなければならい。

手術はこれまでの人生で一番の恐怖体験となった。

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