第2話 集中治療室
僕は集中治療室に移された。嫁も一晩そばに付き添ってくれていた。翌朝8時過ぎには両親と弟が病院に来てくれた。家から病院まで車や電車で1時間はかかる。この頃はまだ僕たち夫婦には子供がいなかった。
そして主治医から説明を受けた。ブルガダ症候群と告げられた。心臓の病気で心室細動という心臓が痙攣を起こし、脳に血液が送られなくなり意識消失し、ひどい時は命を落とす病気だと聞かされた。それを治療するにはICD(植込み型除細動器)という機械を胸に植え込むしかないと言われた。完全に治すことは不可能で、祖父が心臓病だったことから遺伝性の可能性が高いということだった。
僕は自分自身のこの病気の詳しい知識はいまだにほとんどない。主治医の説明を聞いた弟がインターネットで調べてプリントアウトしてくれた物も読まなかった。もちろん自分で調べたこともない。なんだか詳しく知るのが怖いのだ。この文章を書くきっかけになったのが、カクヨムのサイトに公開されいる「ブルガダ珍道中」を読んだからだ。ご主人がブルガダ症候群で倒れ、この病気の事をすごく勉強し、詳しく体験談も踏まえて書かれていた。読むのがすごく勇気がいった。
主治医に僕はほんとに運がいいと言われた。まず車の運転中だったにも関わらず、スピードが出てない時に、しかも誰も巻き添えにしなかったこと。もう少し早ければ高速道路を運転中だった。そして心臓の専門があるこの病院の近くで倒れてここに運ばれたこと。昨晩、3回意識消失したが車の中ではすぐに回復し、3回目の意識が戻らなかった時には病院で、すぐに電気ショックで処置できたこと。
ICDを植え込むことはすんなり受け入れることができた。ICDを埋め込んでも使わないで人生を終えることもあると聞かされ、その言葉だけ強く頭に残った。退院後は今までと変わらない生活が送れるが、車の運転ができなくなると言われた。幸い仕事が車の運転ができないと不便なこともあるが、そんなに必要ではなかったのでなんとかなるだろうと思った。それと障害者1級になること、住宅ローンなどが組めなくなる、保険に加入できなくなることを告げられた。あと機械を植え込む事は心理的影響が大きく、精神的に病んでしまう事もあると聞かされた。
主治医からの説明を受けICD植え込みの手術することを決めた。話し合いを終た病室で、ベッドで寝かされている僕と父と弟の男3人になる瞬間があった。普段感情を全く出さない父が泣き出した。父の涙を見るのは初めてだったので驚いたのと同時に「機械埋め込むだけやし大丈夫やよ」と声をかけた。
それから手術までの5日間、集中治療室で過ごすことになった。
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