月下姉妹

音澤 煙管

月夜の晩には……



近郊の街へ就職して家を出た、

なん年ぶりかの妹からの手紙、

都会へ呼ばれた日。


"今度の連休遊びにおいでよ!

新しい友達も紹介するし!

○日の場所は○○駅前、19時に!

この手紙は持参してねーじゃッ!"


今の時代、携帯電話があるのに

たったこれだけの文章を

手紙で送って……と、

不思議に思ったけど

今は待ち合わせの場所に居る。


都会の駅前は人通りも多く、

田舎の川の濁流に思える。

毎日この流れの中で、

さぞかし妹は通勤して大変だろうなぁと思いながらそろそろ待ち合わせの時間だ。


空から何か降ってきた様で、

見上げると今宵は満月だと気が付く。

都会の空でぼんやりと、

そして明るく優しく光っている。


……とそこへ、


「お待たせぇー姉さん!」


妹かやって来た。


「おー久しぶり!あんだけの文を

何でメールで送ってこなかったの?」


私はその事ばかり気にかけていたから、それが第一声となってしまった。

不思議と苛立ちと変な表情をした私を見つめて妹は言う。


「あの手紙持って来た?」


「うん、はいこれ。

これが理由なの?ねぇー?!」


「まぁまぁ、これ広げて……

はい!読める?」


妹は、私宛ての手紙を広げてぼんやり光る満月にかざした。

すると、月灯りでしか見えない文字が浮かび上がった。


"新しい友達は、お腹の中に!"


「あ、あんたこれ……」


私は浮かんだ文字が滲んで見えて

それ以上は何も言えなかった。

ただ一言だけ、


「おめでとうー!」


と言ってそっと抱きしめた。

新しい友達の親は、駅前でバーテンダーをして居るらしいから、そのお店で祝杯となった。


彼は無口で喋り下手だったけど、

作ったカクテルが美味しくとても作るのが上手だった……と言っても私は下戸なのでノンアルコールを頼んだ、飲めない理由は他にもあった。月の灯りでしか見えない文字は、彼のオリジナルカクテルを自宅で試作していて、偶然出来たものだった。あの手紙も共同作業だった。お店では、妹のやんちゃな昔話やら、学生時代の武勇伝なんか話していたら、その無口な彼は笑いながら自分の話もしてくれた。彼がオーナーのお店らしく、忙しい時期を様子見て改めて挙式の日を決めるらしい。


時間も忘れて、だいぶ話していたので終電の時間間際になって、

"また来るねー妹をよろしくね!"

と言い妹が駅のホームまで見送ってくれると言うので一緒に彼のお店を出た。


来た時とは違う帰りの端っこ、北口側の薄暗いホーム、大事な事を言い忘れてるなぁと思いながら妹と近況の話が続く中電車が入ってきた。

この電車も明るくなかったから、ホームで見送ってくれて居る妹が月の灯りでよく見えた。


あっ!と思い出した途端に、電車のドアがパシャッと閉まってしまった。

人もそこそこ乗っていたので私ははジェスチャーで伝えた。

自分のお腹に指を差して、口パクで

"わたしも新しい友達がここに居るよ、ココ!"

と、少しずつ電車が動く中伝えた。

電車が速くなっいく中、妹は驚いた表情で、少し小走りに私を追いかけて大きく手を振っていた。

"おめでとうー!"

と声は聞こえなかったけど、口パクではっきり伝わってきた。

妹のお腹が少しふっくらしていたから、月の灯りで丸く透けて見えて新しい友達を兎が杵をつき

"早くここから出たいよ!"

と言っている様に見えた。

月の灯りに照らされて、おめでたい姉妹のある一日でした……。




終わり




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