第7話 決戦の時

 春はあけぼの。

 そんなフレーズがよく似合う早朝。


 東の空が明るくなり、今まさに朝日が昇ろうとしている。


 リラ工房の玄関前に二機の鋼鉄人形が起立していた。アルマ帝国が誇る決戦兵器。それは人の霊力で駆動する人型機動ロボット兵器である。


 二機の鋼鉄人形は指揮官機ゼクローザスの親衛隊仕様であった。


 ララ皇女とその脇に二名の操縦士ドールマスターが立つ。一人は黒猫の獣人コウ・エクリプス少尉。もう一人は赤毛のグラマー美女ミハル・ジュドー中尉であった。二人共例の一件異世界社長戦争以来ララ隊長付けで勤務を命じられている。


「ところでララ様。本当にゼクローザスが必要だったのですか?」


 怪訝そうにしているのはコウ少尉。ゼクローザスはアルマ帝国でも指揮官級にしか支給されない上級の機体であり、更に親衛隊仕様は個別に能力がupされている特別仕様となっているからだ。


あ奴シュランメルトは相当にできると見た。私が素手で挑むことは奴の名誉にかけて拒否する可能性がある。つまり、私が搭乗するかもしれない」

「その際はコウ少尉の機体をご使用ください。私がバックアップいたします」

「姉さん。バックアップは俺の仕事……」

「お黙り。これは決定事項です」


 上官風を吹かすミハル中尉だった。

 それには理由がある。ララ皇女が鋼鉄人形を扱う場合、彼女の霊力が強すぎる為鋼鉄人形の出力が設計値を大幅に上回る事が確認されている。つまり、ぶっ壊されるのだ。そんな面倒事はすべて部下に押し付ける合理的思想の持ち主がミハル中尉であった。


 その時、屋敷の中から一人の女性が現れた。

 この工房の主、リラ・ヴィスト・シュヴァルベだった。


「おはようございます。ララ様。昨夜はよく眠れましたか」

「勿論十分に睡眠を取ったぞ。こちらの準備は万全だ」

「それはよろしゅうございます。ところで少し問題が発生いたしました」

「何だ」

「とりあえず中へとお入りください」


 ララはミハルとコウに待機を命じ、自分はリラと共に屋敷の中へと入っていく。そのまま食堂に案内されたララはまるで地獄のような光景を目撃した。


 床に敷いた毛布。

 その上に転がっている男女が4名。そして長椅子とソファーの上に寝ているグスタフと黒子。全員が酔いつぶれていた。


 ツンと漂うアルコール臭に眉をしかめるララ。


「これは何だ。昨夜何をしていた」

「うふふ。少し羽目を外しただけでございます。御覧の通りシュランメルトも酔いつぶれ、試合ができる状態ではありません。この勝負はララ様の勝ちです」

「では、ビューティーファイブの三人は連れて帰るぞ」

「それも難しいかと。しっかりと酔いつぶれております故」


 ギリギリと歯ぎしりをするララ。その気になって乗り込み肩透かしを食らった格好だった。さぞや欲求不満が募っているのだろう。


「それならば其方が私の相手をするのか。リラよ」


 しかし、リラは丁重にその申し出を断った。


「私もいささか酔っておりますので、その申し出はお断りいたします。それに、あのような経験異世界社長戦争での敗戦は御免こうむりたいと存じます」


 深く礼をするリラだった。


「仕方がない。しばらく好きにさせろ」

「ありがとうございます。ところでララ殿下。一つお願いがあるのですが?」

「何だ?」

「それは、ビューティーファイブのメンバーは本来五名。しかしここに来ているのは三名」

「そうらしいな」

「そこで、残りの二名の代りを務めていただくことはできないでしょうか」

「私がか?」

「ええ。それと、外で待機されている美人操縦士ドールマスターの方にもお願いしたいのですが」

「わ……私は歌や踊りは苦手だし、ミハル中尉はとても美少女と呼べる年齢ではないぞ。地球人的見た目年齢でももうすぐ30だ……」

「大丈夫ですよ。すべて私が何とかします。さあさあ、衣装を用意しないくてはいけませんね」

「わ。待て待て。私は同意していないぞ」

「大丈夫です。明日行われる予定の王宮イベントをこなしていただけるだけで結構ですから。問題ありませんよ」


 その後、ミハル中尉も合流して衣装合わせやダンスの練習が始まった。ミハルは嬉々として、ララは涙を流しながら練習に打ち込んだ。


 翌日、王宮で行なわれた披露イベントは大いに盛り上がり、国王をはじめ多くの人々に拍手喝采で称えられたという。


「若返っちゃった気分よ。気持ちいいわね」とはミハル中尉の弁。

「嵌められた。仕組んだ奴は絶対に許さん」とはララ皇女の弁。


 王宮イベントの映像はベルグリーズのみならず、地球やアルマ帝国でも大ヒットしたらしい。

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荒野の決闘!☆シュランメルトvsララ 暗黒星雲 @darknebula

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