第6話 アイドルの本質とアルコールの深い闇

「シュランメルトさん? 貴方、モテモテなんじゃないの?」


 知子が唐突に質問した。

 シュランメルトは眉間にしわを寄せ首を振る。


「残念だがおれは記憶を失っているのだ。ここ一週間の事しか覚えていない」

「恋の予感♡」

「今何と?」

「何でもないわ」

「どういう意味だ?」

「つまり、記憶を失った王子様は、当然過去の恋人や許嫁の事をすっかり忘れているの。そんな時に出会う異性は王子様の心に強烈に刻み込まれるものだわ」

「そうなのか」

「そうなの……ねえ。私の事、どう思う?」

「どう思うと聞かれても困るのだが。本日出会ったばかりだし」

「これでもアイドルなんだよ」

「すまない。そのアイドルとやらも何の事なのか分からないのだ」

「ふーん。脈無しかぁ。私たちってどうしてこうなんだろうね」

「それはどういう意味なのだ?」

「それはね、私たちビューティーファイブはアイドルユニットなのよ。それなのにメンバーの誰も恋人がいない」

「それはお気の毒なのかな?」

「お気の毒だよ。普通はね。アイドルっていうのはある種のセクシャルシンボルなんだ。こういう人とお付き合いしたい。こんな人を恋人にしたい。そういった願望を具現化した偶像。それがアイドルなんだ」

「つまり、世間一般には異性にモテモテなのが普通であると」

「そうだよ。普通はそうなんだ。アイドルって。でも私たちは違う」

「どう違うのかな?」

「メンバー全員がどこかとんがり過ぎてるのかな?」

とんがる?」

「そう。それはまるで川崎重工製オートバイのような物。万人受けを狙ったホンダとは発想が根本的に違っているんだ」

「そのカワサキとホンダの例え話は全く理解できない。申し訳ない」

「ごめんごめん。要するに個性が強すぎると万人受けし難くなるって話です」

「ふむ。何となくは理解できるが、その話、おれには難しいかもしれん」

「なるほど。では質問を変えよう。シュランメルトさん。貴方、好きな女性はいるの。気になっている女性はいる? あ、男の人でもいいよ。そっちの方が萌えるかもww」


 シュランメルトは腕組みをしてしばし考えた。

 それは何か心当たりがあるかのような行動だったのだが、一匹の黒猫がテーブルの上に飛び乗りシュランメルトの前に陣取った。


 その黒猫を見つめながらシュランメルトが呟く。


「すまない。好意を寄せる、もしくは恋焦がれる女性に何か心当たりがあったような気がするのだが、この黒猫のせいで霧散してしまった。そういった女性はいたのかもしれないが今は分からない。そして一つ念を押しておくが、おれには男色の趣味はない。もちろん記憶が定かであるわけではないのだが、それだけは何故か確信している」

「ふーん。BL要素は無し。ちょっと残念だけど、そういう人ってリアルでの生息数は少ないんだよねー」

「そうなのか? そうだろうな。そのような奇特な趣味性を持つ男性が多くいるとは思えない」


 シュランメルトの言を聞き頷いている知子だった。何故か意気投合して話し込んでいる二人。リラは微笑みながらその二人を見つめる。そして、湯割りをゴクリと飲み干していく。


「ぶはー。この暖かいアルコールが体に染みわたる感覚は最高だな、シュランメルト」

「はい。リラ師……匠ぅ……」


 急にろれつが回らなくなったシュランメルト。元々が酒に慣れていなかったようで、それにこのハイペースが祟ったようだった。


「こ……これが酔うという感覚なのか……世界が回っているではないか……面白い……そして気持ちが良い……まるでおれが世界の王にでもなった気分だ。あはははは?」


 シュランメルトは笑いながら意識を失った。

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