第5話 こうして修羅場が形成されていく

 自身に気を引こうとしたのか。それとも、酔わせて介抱するのが目的なのか。グスタフの企みに気づくそぶりもなく、三人の少女はそのレモン酎ハイを一気に飲み干した。


「うわー。これ美味いよ。微妙にストロング系? 食事に合いますって感じだね」


 グスタフを褒める羽里は空いたグラスを差し出しお替りを要求した。


「貴方、何を考えているのかしら。これお酒が入っていますわ。でもお替り」


 グスタフを睨みながらもお替りを要求するフィーレ。


 この二人は顔色を変えておらず、酒はいける口のようだ。しかし、黒子の様子は違っていた。


「えへ。気持ちよくなってきちゃった。へへへ」


 顔を真っ赤にしてニヤニヤし始めた。


「ねえグスタフ君。お姉さんと遊ぼうか。えへへ。ヒクッ」


 その様子を確認したグスタフの眼が光る。ターゲットをロックオンしたかのようだ。


 グスタフは三人分のお替りを作って席へ戻る。そして、黒子の傍に、まるで密着するかのように座った。


 フィーレと羽里はそのレモン酎ハイをぐいぐいと飲む。非常に良い飲みっぷりだ。黒子は何とグスタフに抱きつきそして抱え上げて自分の膝の上に座らせてしまった。

 黒子の豊満な胸を押し付けられ、ゆでだこのように真っ赤になっているグスタフ。狙い通り、いや、狙い以上の成果に満足したかのような笑みを浮かべていた。


「可愛いお坊ちゃんは離しませんよ。さあさあ貴方も美味しいレモンジュースを飲んじゃおうね。ね!」


 途端にグスタフは青ざめる。黒子のグラスを口に付けられそうになり必死に首をそらして逃れようとする。


「あれあれ? お姉さんと間接キッスするのは嫌なのかなぁ? でも、逃がさないわよ」


 黒子は強引にグスタフにレモン酎ハイを飲ませた。

 量はわずかであったが、途端にグスタフは豹変した。


「黒子お姉さん。おっぱい触っていいですか?」

「おさわりは禁止です。私はこれでもアイドルなんですよ。そんなスキャンダルはご法度なのです」

「でも、ここは異世界でしょ。絶対バレませんよ」

「そうかな? そうかもね」

「そうそう。バレないよ。ねえ、いいでしょ」


 グスタフは体の向きを変えた。

 そして、黒子の胸に顔を埋めつつ嘆願する。


「黒子お姉さん。ここまでしたらおんなじだよ。触らせてよ」


 そんな風に言いながら、ベストのボタンを外していくグスタフ。

 しかし、その様子を鬼の形相で見つめている少女が二名いた。


「黒子ちゃんの胸は私の物よ。ド変態のエロガキが気安く触るんじゃないよ」


 羽里はグスタフの頭にゴチンとゲンコツを食らわせた。


「ぐぬぬ。お客人に対するセクハラ行為など言語道断ですわ。恥を知りなさい」


 フィーレはグスタフにバチンとびんたを浴びせた。


「痛いけど痛くない。だって黒子お姉さんがさあ。むにゃむにゃ」


 目が覚めるどころかそのまま眠ってしまったグスタフだった。そして黒子はそのグスタフを抱きしめる。


「グスタフ君は何も悪くないですよ。おねんねしましょうね」


 などと言いながらグスタフの頭を撫でる黒子。そして黒子もグスタフを抱いたまま眠ってしまった。


「本当に寝てしまったのかしら」

「うん。間違いない。黒子は酒癖が悪いんだけど、潰れるのも超早いんだ。えへえへ」

「とりあえず、引っぺがしましょう。何だかムカツクわ」

「そうですね。こんなガキが黒子ちゃんの胸を狙ってたなんてちょっとショックです」


 グスタフは部屋の隅にあった長椅子の上に寝かされ、黒子はそれとは別のソファーへ寝かされた。


 そして飲みなおす二人だった。


 おい、まだ飲むのかよ。君たち未成年でしょ?

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