シモーヌ編 くすぶっている想い
新暦〇〇三六年七月七日
『たぶん俺は、エレクシアがもし
かつて
何よりエレクシアは変わらずエレクシアなんだ。冷淡で、辛辣で、事務的で、塩対応で、時々、本気で俺を見下してるんじゃないかと感じるくらいに遠慮のない彼女であることに何も変わりはないんだよな。
そしてシモーヌは、そんな俺のエレクシアへの気持ちも含めて丸ごと愛してくれている。だから俺も、レックスに対する想いを今なお引きずっているであろうシモーヌのことを、そういう部分も含めて愛している。
むしろ、そうやって大切な人のことを大切にできる彼女だからこそ愛せると言った方がいいかな。状況が変わったからといって簡単に気持ちを切り替えてしまえるような人間だったら、俺に対する気持ちさえ、状況次第で簡単に変わってしまうかもしれないと思うし。
透明な自分の体の中で順調に育っていく胎児のことを熱心に観察しつつ、やはり時折、寂しそうに、
「はあ……」
と小さく溜息を吐く彼女を、俺はただ見守る。
彼女がどういう決断を下そうとも、それ自体を受け止める覚悟を持って。
そうだよな。俺が何を言おうと何を望もうと、彼女は、
<俺とは別の人間>
なんだ。そんな彼女を俺がすべて思い通りにできるはずがない。彼女の<想い>は彼女自身のものであって、俺がどうこうできるものじゃないんだ。それをわきまえてない人間が、他者を自分の思い通りに操ろうとして様々な問題を起こす。
DVしかりストーカーしかり。不倫だって結局は、
『自分がこんなことをしたって許してくれるはずだ』
という身勝手な押し付けによって自身の行いを正当化してるんだろう?
俺はそういうのは正直、納得できない。自分がそれをされる側だと考えればな。だったら当然、自分もそれをしないように心掛けなきゃおかしいだろう。
これは、シモーヌを信じてるとか信じてないとかの問題じゃないんだ。人間の心理ってのは、本人にさえままならないものだからな。
それにシモーヌは、別にレックスに会いに行ったりしてるわけじゃない。あくまで自分の中にくすぶっている想いとどう向き合うかで懊悩してるんだと思う。
加えて、彼女だってエレクシアを愛してる俺のことを愛してくれてるんだ。お互い様ってもんだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます