シモーヌ編 経過観察

新暦〇〇三六年七月八日




鈴夏すずかが発見されたりしたことですっかりご無沙汰だったが、移動電源三号車についても、鈴夏すずかを発見した後はこれといってトラブルもなく、無事にビクキアテグ村へ到着、給電を開始している。


厳密にはビクキアテグ村じゃなく、アリアンが駐機されている<空港>のすぐ傍だけどな。アリアンへの給電が主な役目になるからだ。村の方の電力需要は十キロワット程度で済んでいるし。また、周囲で草食動物をおびき寄せるための畑を作っているドーベルマンMPMへの給電も担当してもらう。


なお、その移動電源三号車については、ドーベルマンMPM六十三号機とホビットMk-Ⅱ二機がそのままメンテナンス要員として就き、空港の脇に仮設の小屋を建ててその中で発電を行ってるんだ。


こちらも、一号車と同じくボロボロのボッコボコで見た目にはひどい有様ではあるものの、発電機としてはそれこそこれといった不具合は出ていない。その一方で、車体側ではシャーシに許容値以上のゆがみが生じた所為で<車両>としてはかなり致命的なダメージを負っていたけどな。まっすぐ走れないんだ。常にハンドルを若干切った状態にしておかないと直進できなくなっていた。ただこれも、基本的にはここに固定したまま発電機として運用されるだけだから、大きな問題じゃないが。


ちなみに、シャーシにゆがみが出るような<事故>は起こしていなかったので、何かのはずみで想定以上の負荷がかかったものと思われる。しかし、原因が特定できないくらい通常の範囲内での使用で許容値以上のゆがみが生じるというのではそれ自体がいささか問題なので、設計が甘かったのかそれとも製造上の瑕疵なのか、それがどちらにせよ対応していかないといけないな。


まあ、部材を節約するためにも必要最低限の強度計算で設計してもらったから単純に想定が甘かっただけなんだろうが。実際、コーネリアス号に搭載されていた仕様のローバーのコンポーネントを流用した自走式浮橋の方は、車両には全く問題が生じていなかった。なので四号車以降には新たな設計を用いることにする。


なお、自走式浮橋の方も、浮橋に取り付けられたアームの動きが悪いという不具合があったりしたので、これも再設計で対処しよう。


などという諸々を確認しつつ、シモーヌの様子もきちんと窺う。決して放置はしない、何しろ彼女は俺の大切な<パートナー>だ。レックスが現れたことで心理的な影響は受けていてもその事実は変わらない。


だから放っておくこともしないさ。と同時に、むやみに干渉するのも好ましくないのは分かっているから、慎重に経過観察してるわけだ。


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