シモーヌ編 自走式浮橋
新暦〇〇三六年六月三十日
炭鉱脇の汎用工場<F-2>で、移動電源の三号車が完成した。こちらも石炭を燃料にしたタイプだ。それを今度は、ビクキアテグ村に向けて移動させることに。実用試験を兼ねて。
さらに今回は、仮設橋梁の運用試験も兼ねた、<自走式浮橋>三台も随伴する。と言うか、そっちの試験がメインかな。
<自走式浮橋>は、その名の通り、浮体構造の仮設橋梁を車体の一部としたトラック型の車両だ。要するに、
『後ろの荷箱に見える部分が二つに折り畳まれた<フロート>になってて、それを河に浮かべて仮設の橋になる』
というものだ。これ一台で、幅三メートル、長さ十メートルの浮橋になる。だからつなげると三十メートルの浮橋が出来上がるという。
あくまで河に浮かべるだけのものなので、流れに逆らうためにスクリューを装備した車両部分で押さなきゃいけない。と言うか、実は本体部分はコーネリアス号に搭載されていた<未組み立て状態のローバーのコンポーネント>を流用したものなんだ。ローバーは元々水陸両用車だからちょうどよかった。さらにこれにより工期も大幅に短縮できた。
もちろんこの自走式浮橋自体もロボットになっていて、人間の手を借りなくても橋を架けて、移動電源を渡したらトラック形態に戻って次の河まで移動することができる。
未組み立てのローバーが残り少なかったから今は三台しか用意できなかったが、いずれ同様のスペックを持つ車体を新たに作って台数を増やせば四十メートル五十メートルと伸ばしていけるし、長さが足りなくても簡易の<フェリー>のようにして移動電源を浮橋に乗せて対岸まで渡るという使い方もできる。とは言え、厳密には<船>じゃないからあまり長距離を航行することは想定してないが。
そして、移動電源に搭乗するのはドーベルマンMPM六十三号機、自走式浮橋一号車に搭乗するのはドーベルマンMPM六十二号機、同二号車に搭乗するのはドーベルマンMPM六十一号機、同三号車に搭乗するのはドーベルマンMPM六十号機だ。それぞれ、ホビットMk-Ⅱ二機が助手として同乗する。
こうして、移動電源と自走式浮橋三台の編成で出発。
途中まではアリニドラニ村へのルートと同じだったので、その間はとてもスムーズだった。しかも、移動電源一号車の時はアリアンに吊られて越えた河も、浮橋を渡って越えていく。自走式浮橋の車体部分はローバーだからその機能や性能は折り紙付きだし、浮橋自体は構造も単純だからか目立ったトラブルもなかった。
浮橋を用意する時間に比べればアリアンで吊った方が実は早かったにせよ、まあこれもあくまで今後に向けた試験だからな。構わない。
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