シモーヌ編 暮らし

こうして移動電源の試験を再開する一方で、水没したホビットMk-Ⅱらの捜索を、水泳部らによって行う。水没時の流量や流速については五十九号機らが記録してくれていた上に、ホビットMk-Ⅱの方も完全に機能を失うまでの間は信号を出してくれていたので、それらを基に大まかな予測を立て、捜索を開始する。


「いずれ、遭難者や行方不明者の捜索とかを行うこともあるかもしれないから、それのシミュレーションとして行ってるんだ」


「なるほど」


俺が説明すると、レックスも納得してくれた。


「しかし、かなり体制が充実してきているね。私達が例の不可解な存在の中でデータヒューマンとして暮らしていた時とは大違いだ。あそこには一切の<文明の利器>がなかったのもあって、苦労したよ」


『苦労した』とは口にしつつも、その表情はどこか穏やかで、本当にギリギリのサバイバルとまでは言えない状態だったのが窺える。実際、シモーヌやビアンカや久利生くりうの証言からも、気候は穏やかで自然も豊かで食料に困ることはなかったし、元々、皆がサバイバル技術についても研修済みのだったこともあって、


『ちょっとサバイバル寄りのキャンプ』


といった風情だったそうだし。


もちろん、文明の利器が一切ないのはなかなかつらい部分もあっただろうが、<研究者としての興味>がそそられる部分も少なからずあって、意外と楽しかったとも。これについてはメイガスもそうだったらしい。


そんなメイガスとも連絡がついて、


「久しぶりだね。メイガス」


「あんたも来たんだね、アレクセイ」


河の岸でイレーネが手にしたタブレット越しに顔を合わす。満二歳になった息子のラケシスは、見た目には六歳くらいにの感じに成長し、ヤンチャ盛りだった。他のクロコディアの子供らと河の中でじゃれ合ってる。


「幸せそうでよかった」


そう口にするレックスに、


「まあね。さすがにこの姿で生まれたと気付いた時には凹みもしたけど、なっちまったものは仕方ない。それに今の暮らしも悪くないよ。この体には合ってる。しかもメンタリティもこっちの生き方に適合して変化してるのが自分でも分かるんだ。特に、普通の人間の食い物が『美味い』と感じなくなったのは大きいね」


発音こそやや不明瞭なものの、彼女のことをよく知る人間になら聞き取れるそれで楽し気に話すメイガスを、レックスもあたたかい目で見ていたようだ。


そんなこんなで、レックスと再会できたシオは完全に安定し、彼と共にこのままコーネリアス号で暮らすことになった。


久利生くりうは仲間を守れなかったコーネリアス号で暮らすことはできなかったが、レックスはその点では割り切れているようだ。


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