シモーヌ編 試験再開

新暦〇〇三六年六月十六日




こうして、


<もう一人のレックスの葬儀>


を終えて、俺達は日常へと戻っていく。葬儀の際には涙していたシモーヌも、


「うん、もう大丈夫……」


とは言ってくれた。『本当に大丈夫』なのかどうかは別にしても、少なくとも表面上は落ち着いているようだ。そんな彼女の様子を注意深く確認しながら労わろう。


それができてこそ信頼関係も維持されるしな。


『釣った魚に餌はやらない』


的な考え方が地球人社会では横行していたらしいが、だから、健康寿命が六十年だの七十年だの程度の頃でも、<熟年離婚>なんてものが頻発してたんだろう? と感じる。


で、老化抑制技術が進歩し健康寿命が約三倍の二百歳ともなれば、これまでにも何度か触れてきたように、


『生涯を共にする』


のがむしろ難しくなったこともあって、


『子供が成人し独立したのを機に離婚し新しい人生を始める』


という事例も当たり前になったけどな。


実年齢が四十歳の時に結婚して四十年間夫婦として過ごしても八十歳。肉体年齢はそれこそ二十代と変わらないから、何一つ躊躇う理由もない。


『年齢はパートナーを見付ける際の障害には事実上ならなくなった』


わけで。


とは言え、<死別>はやっぱりつらいと感じることも多いだろう。加えて、シモーヌ達の事例は、感情的にどう捉えていいのか本人にも分からなくて、なおのこと心が乱されて当然だと思う。


朋群ほうむ人社会では、そういう部分においてのメンタルケアを充実させなければならないだろうな。




そういう懸念もありつつ、<移動電源>の試験については、レックスが保護された翌日には再会に向けて準備を始めた。


それに向けて、輸送用ヘリにホビットMk-Ⅱ二機と及び水泳部仕様六機、捜索用のボート、担架等を積み込み、炭鉱脇の汎用工場から飛び立たせる。


ドーベルマンMPM五十九号機については特に問題なかったので洗浄だけ行って、移動電源に乗り、アリアンで吊って河を超え、輸送用ヘリの合流を待つ。


レックスの件があって丸一日放置されることになった移動電源ではあるものの、こちらも目立った問題はなく発電を続けて、五十九号機と移動電源自体に給電を行ってくれていた。


ただ、アリアン向けの大容量送電がなぜか不安定になり、アリアンへの給電はままならなくなってしまったが。これについては後ほど詳細に調べて原因を突き止めなければな。


まあ、これだけボッコボコになっていれば不具合がまったく出ない方がむしろおかしいか。耐久性を上げるのも大事ではありつつ、必要とされる現場に到着してから確実に修理できるような体制作りも求められるって話だ。


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