シモーヌ編 座位分娩

そうしてあかりがいよいよ分娩に挑んでいる中、ビアンカは素戔嗚すさのおのところにいた。本音ではあかりの傍にいたいと思ってても、その辺りの事情を理解できない素戔嗚すさのおのことも蔑ろにはできないからな。


地球人はとかく自分の思い通りにならない相手を蔑ろにしたがるが、そんなことをしていたから多く問題が起こったんだってことを自覚するべきだと思うよ。


いや、<地球人類>としてはすでにそれは理解してるしわきまえて社会を構築しようとしてるんだけどな。その一方で、個々人で見ると、俺がまだ地球人社会で暮らしてた頃にはいまだに自分の思い通りにならい相手は蔑むのが当たり前と考えるのがいたのも事実だ。


同じ地球人として慙愧に堪えん。


確かに素戔嗚すさのおは俺達の都合を理解してはくれない。けどな。彼はもう俺達の仲間だ。仲間であるなら尊重はする。彼が俺達に対して敵意を向けないでいてくれてることだけでも十分に俺達の都合に合わせてくれてるよ。そしてビアンカが彼を尊重してくれているからこそ彼も俺達を仲間だと思ってくれているんだ。それを、見ず知らずの赤の他人にあれこれ言われる筋合いはないんだよ。


加えて、さすがに初産だからそんなにすぐには生まれないだろうし、なんだかんだで素戔嗚すさのおの相手をしてる時間は十分にあると思う。


黎明れいあと抱えケインを背負ったビアンカはただ素戔嗚すさのおがドーベルマンMPMに挑みかかるのを見守っているだけだが、彼にとっては、


『ビアンカが自分を見てくれている』


ことが大事なんだ。


そうして今日も全力を振り絞って満足した素戔嗚すさのおは、自分の寝床に帰っていった。それを見届けて、ビアンカも家に戻る。すると、


「うお~! のやろ~っ!!」


あかりが呻き声を上げていた。すでに子宮口は最大。胎児が下り始めている。


ちなみにあかりは、<座位分娩>を選択した。一口に座位分娩といっても色々あるらしくて、あかりの場合は、久利生くりうに抱き付く形で座り、重力も利用して胎児を送り出すという方式だった。この方が力も入りやすいらしい。


治療用ナノマシンを注射した<簡易無痛分娩>とは言えど、あくまで痛みを軽減するだけの<減痛分娩>だから、それなりに痛みはある。だからついつい声が出るようだ。


そんなあかりを、久利生くりうはしっかりと支えてくれる。その久利生くりうの指示を受けて実際に対処するのはモニカだ。この辺りもしっかりとこなせるように作ってあるアリスシリーズであるモニカは実に頼もしい。正直、ホビットMk-Ⅱではまだここまでじゃないんだよな。


とは言え、出産の補助などについては今でも十分に体制が作れてるから、まあ当面は大丈夫だろう。


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