シモーヌ編 灯

新暦〇〇三六年四月一日




「おお~! きたきた~っ!!」


朝、あかりがいきなりそんな声を上げた。腹を抱えつつ。


陣痛かもしれない。しかしまだ分からない。なのでしばらく様子を見る。が、一時間も経たないうちに、


「うふお~! またきたあ~っ!!」


再び声を上げて。そしてさらに一時間ほどで、


「うっは~っ!」


とか。


「大丈夫? あかり


ルコアが心配そうに声を掛ける。すると経験者であるビアンカは黎明れいあを抱いて、


「大丈夫じゃないけど、こればっかりはね」


と苦笑い。さらには、


「アカリ……」


「アカー……」


未来みらいとイザベラまで心配げに声を掛けてきてくれた。ケインとキャサリンも、少し不安そうに離れたところから見ている。


『ああ…ちゃんと家族だなあ……』


改めて思う。未来みらいはともかく、イザベラやキャサリンまであかりを心配してくれてる様子には、感動すら覚える。彼女達は<ヒト蜘蛛アラクネ>じゃない。れっきとした<アラニーズ>だ。人間なんだよ。


そんな家族に囲まれて、あかりは初めての出産に挑もうとしてる。


姉のひかりと同じく完全に地球人の姿をしていることもあってか、アクシーズとしては大柄と言えるあかりなものの、地球人の女性の平均に比べればやや小柄でもある彼女がどう出産を行えるかは、正直なところ未知数だ。


だから、夕方頃、陣痛の間隔が短くなってきて十分間隔になった時点で久利生くりうが治療用ナノマシン注射を行い、万が一に備える。


そうして分娩室となった部屋に久利生くりうやモニカと共に入り、いよいよ分娩を開始する。治療用ナノマシンを使った簡易とは言え無痛分娩だから負担も少ないとは思うものの、祈るしかない。加えて初産だ。時間はかかるだろう。


久利生くりうとしては、これが二度目、きたる未来みらいを生んだ時のを含めると三度目ではある出産の補助だからこそ落ち着いた様子だったが、とにかく任せるしかないな。


そんな様子を、シオもコーネリアス号の私室で見ていた。あかりが承諾してくれたから、分娩室内の様子もだ。これは、シモーヌも見ている。


シモーヌは、あかりにとっては<育ての母>だ。地球人社会では母親が立ち合い出産することはそれほど多くないそうだが、


「頑張るよ。見ててね、ママ」


あかりはシモーヌに対してそう言った。そのやり取りはシオも見ていたものの、あかりの実母はようであることは渡した資料で理解してくれてる。それに、シモーヌとあかりは見た目にはまったく似てないし、血の繋がりは感じないだろう。


だが、あかりがどれだけシモーヌを母親として信頼してるかは、伝わると思う。


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