シモーヌ編 囮

母艦ドローンを派遣すると同時に、ホビットMk-Ⅱも、集落の建築作業を中断してもらってニ十機中の十五機を派遣する。雨はかなり収まってきてたが一応、レインポンチョをまとって簡易の防水を行って。


手には自動小銃。念のための救急キットを装備した機体もある。本当に人間の救援隊のような装備だ。


そして今回、予感が的中した。これまでにも無数に同じような対応をしたものの空振りに終わってきたが、こういうことがあるからやめるわけにはいかないんだよな。


「水中に人間の姿。要救助者と認定」


母艦ドローンのカメラ映像を解析したエレクシアが告げる。


シモーヌと久利生くりうに続く三例目、ビアンカやメイガスのような事例も含めると五例目ってことか。


その河にも<アーマード・ピラルク>や<クロコディア>は棲んでいるので、そのままにしておけば間違いなく死ぬだろう。カメラ映像には、透明に見える人間が平泳ぎで岸に向かっているのが映っていた。


……って、これはまさか……


俺の頭によぎる考え。だがその前に、


「要救助者にクロコディアが接近中。第一小隊、構え! 援護射撃! 撃て!」


エレクシアがホビットMk-Ⅱに指示を出す。河岸に並んだホビットMk-Ⅱ五機が小銃を構え、一斉射。


とは言え、小銃を水中に向けて撃ってもロクに効果はない。<威嚇>としての効果も十分には望めない。すると、エレクシアは続けて、


「第二小隊、前へ! 要救助者の保護と援護!」


躊躇うことなく指示を出す。そして五機のホビットMk-Ⅱが、レインポンチョを袋状にして装備品の結索バンドで縛って簡易の浮きにして体に縛り付け、さらに浮き代わりの流木を手にやはり躊躇うことなく河に入っていく。完璧な防水ができていないホビットMk-Ⅱでは水没すると非常に高い確率で故障することが分かっている。分かっているが、ロボットは躊躇わない。人間の体の免疫細胞が体を守るためなら自らを犠牲にすることも厭わないように。


河に入ったホビットMk-Ⅱのステータス画面に浸水警報。見る見る赤く染まっていく。しかし決して怯まない。ぐいぐいと前進し、要救助者の下へ。


「た、助けて……っ!」


要救助者もロボットが自分に向かってきていることに気付いていて、助けを求める。


「もう大丈夫です! 我々が保護します!」


母艦ドローンのスピーカーを通じて俺は声を掛けた。すると要救助者は流木に捉まってきた。


それと入れ替わるように、ホビットMk-Ⅱらは、河岸に向けて流木を押しつつも、一機、また一機と手を放してその場に残る。クロコディアを引き付けておく<囮>になるためだ。


元より生身の人間より少し強い程度の戦闘力しかないホビットMk-Ⅱでは、水中でクロコディアに対抗する手段などない。襲ってくるクロコディアにしがみついて動きを封じるくらいしかできることがないんだ。


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