玲編 些末な話

新暦〇〇三五年十一月十一日




こうしてめいを見送った後も、あかりの子やれいの子を迎える準備を続ける。


共に順調なのは確かなんだが、少し気になることもある。


それは、


『アクシーズは本来、超低体重児(いわゆる超未熟児)の状態で出産するわけだが、あかりの場合はどうなのか?』


という点と、


あかりの子もれいの子も、果たしてどのような姿で生まれてくるのか?』


という点だな。


とは言え、どのような姿で生まれてこようがそんなのは俺にとっては些細な問題であって、


あかりの子が超低体重児として生まれてきた場合、その子が果たして普通のアクシーズの子供と同じくその時点で自発呼吸ができるのか?』


の方が重要だ。それは当然、久利生くりうやビアンカも察していて、


「そうなれば当然のこととして、ケイン達に使った孵卵器を保育器に転用して対処することになるね」


「はい、分かっています。そのためのシミュレーションを実施します」


久利生くりうは医師経験者として、ビアンカは看護師経験者として、それぞれ、起こりえる事態に向けて準備を始めてくれていた。


本当に優秀な人材だよ。俺はただ、唯一の地球人として、AIやロボットに対して権限を行使するだけで済んでる。


あかりは、とても朗らかで誰からも愛されるタイプで、そういう形で皆を引っ張っていける能力はあっても、さすがに専門知識についてはわずか三十年余りの経験しかないだけあって、十分じゃない。


一方、久利生くりうやビアンカは、老化抑制処置のおかげもありあかりの三倍近い時間を過ごしてきただけあって、経験を積み知識を仕入れる時間も豊富だった。その辺りについてはAIも補助してくれるものの、やっぱり実際に現場を知っている人間というのは頼りになる。


さらにれいの子については、もし何かあればすぐさま治療カプセルで対処する。そしてこちらにはエレクシアもセシリアもイレーネもいる。セシリアを中心とした体制はすでに整っている。


めい、お前の孫は俺達がちゃんと守る……だから安心してくれ……』


なんて言っても、はてさて、めいがその辺りをどこまで気にしてるのかは、俺には分からないか。


ただ、れいの危機に際しめいが身を挺して彼女を庇ってくれたのも事実だ。れいえいの子を宿しているという話についてはめいの前でもしていたから、もしかしたら承知してくれていた可能性はある。あるが、それも結局は推測でしかないか。


でもそれも些末な話だ。めいが庇ってくれたかられいれいのお腹の子は命を取り留め、こうして生まれ出でる時を待っている。


その事実はゆるがない。


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