玲編 目立った変化

新暦〇〇三六年二月一日




あかりのお腹に宿った胎児は、月齢七ヶ月目に突入した。出産の兆候もいまのところない。だいたい満六ヶ月くらいで出産するアクシーズとしては少し心配しなくちゃいけない状態だが、地球人としてみればまだまだ先だ。お腹もまあまあ目立ってきている。


ひかりがだいたい満八ヶ月を過ぎたくらいでひなた萌花ほのかを出産したこと、ビアンカが黎明れいあを生んだのもそれくらいだったことを考えれば、もしかしたら地球人の姿で生まれた者の子はそのくらいなのかもしれないな。まあビアンカはかなり特殊な事例なので参考にするのには適さないとしてもな。


地球人の場合は八ヶ月でもいささか早すぎるはずだが、そもそも成長が早い朋群ほうむ人の場合、胎児でも八ヶ月くらいで十分に生きるための機能が備わってるのは、ひなた萌花ほのか黎明れいあで確認済みだから、たぶん、八ヶ月くらいが目安になるんだろう。体重も、地球人の月齢八ヶ月の胎児に比べるとかなり立派だったし。


妊娠期間が長いとそれだけリスクも増える野生で生きる獣人達の形質も受け継いでるからこそか。


またれいの方もかなりお腹が目立ってきた。だがそれ以上にれい自身の目立った変化として、


『服を着るようになった』


ということだ。どうやら龍昇りゅうしょうとやり合った時に、周囲の枝や雑草で細かい傷を負ったことで服を着る意味を知ったのかもしれない。着心地のいい、<コーネリアス号の備品>として備えられていたものを、今は身にまとっている。


ただし、それでも<下着>は着けようとはしなかった。下着を付けずにそのまま長袖のTシャツやレギンスを身に付けてるんだ。しかも、明るいエメラルドグリーンの。マンティアンがそれに近い体色をしていることで、彼女も意識しているのかもしれない。ただし、靴は履いていない。まどかひなたが、<地下足袋>と呼ばれるそれに近い機能をもつ靴を履いてるのに対し、れいは今も裸足ではある。


ファッションセンスとしては、正直、俺の目からしてもどうかと思わなくもないものの、本人がそれを望むなら別にいいだろう。そもそもここに他者のファッションを嗤う奴はいない。


なお、Tシャツも伸縮性に富むそれだからお腹も苦しくはないんだろうが、何ともやや妖艶な印象もないわけじゃない。


まあ、そんな姿を<妖艶>と受け取る感性を持ってるのもたぶん俺だけだが。


いずれにせよ、外見上は、多少のあどけなさは残しつつも、それも含めて<やや童顔の大人の女性>という感じか。


「はっはっは! 我が子は実に元気だ!」


あかりは胎動を頻繁に感じさせるのが嬉しい様子で、


「……」


れいは大きく膨らんだ自分のお腹を不思議そうに見つめてることが多いな。


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