玲編 明

新暦〇〇三五年十一月九日




こうしてかろうじて龍昇りゅうしょうも退けられ、俺達は安堵した。自身の住処に帰っためいも、どうやら大丈夫だったようだ。龍昇りゅうしょうの蹴りを食らってヒヤッとしたものの、さすがに彼女も歴戦のマンティアン。インパクトの瞬間に体をねじることでダメージを軽減したらしい。


老いたりといえど身に沁みついた技量は彼女を守ってくれるか。


えいも、大きなダメージは負っていなかった。ただ、れいが怪我をしたことで心配そうに治療カプセルを見詰めていたりもしたが。


でも、


「大丈夫。助かるから」


エレクシアがそう告げてくれると、少し安心したらしい。


そして翌日にはまた、めいは平然とした様子でひかりに絵本を読んでもらいに現れた。それどころか、なんだかこれまでより調子が良さそうだった。ギリギリの戦いを生き延びたことで生気が戻ったのかもしれない。


だが……


龍昇りゅうしょうとの戦いから一週間が経った今日、めいは起きてこなかった。自身の住処の中で体を丸めて休んでいた姿のまま、永遠の眠りについたんだ。


「亡くなる直前、嘘のように元気になることがあるって話も聞いたことがあるのはあったが、それなのかよ……」


そうだ。ここのところやけに調子が良さそうだったのは、ロウソクが燃え尽きる直前にカアッと明るくなるそれのように、めいの命も最後の輝きを見せたってことなのか……


「エレクシア……頼む……」


めいの母親のじんは、俺達の集落の中に墓を作ったが、めいについては、仲の良かったかくと一緒にと思い、エレクシアに頼んでかくの隣に埋葬してもらうことにした。


こうなると俺がほいほい墓参りできなくなるものの、めいはここを巣立ってかくと添い遂げたんだもんな。かくの傍が彼女のいるべき場所なんだろう。


かくが亡くなるまでは、ここに顔を出すこともほとんどなかったし。


めい……」


さすがにひかりも寂しそうな表情を見せた。そしてあかりも。


自分の妹であり姉でもある彼女の死を、悼んでくれた。もちろんシモーヌも、まどかも、ひなたも、ビアンカも、久利生くりうも、そしてルコアまで。


めい……俺はお前に逢えて本当に良かったよ。俺の娘として生まれてきてくれてありがとうな……そしてお疲れさん……ゆっくりと休んでくれ……」


何とも言えない寂しさと言うか虚しさと言うかを感じつつ、同時に俺は、自分の本音を口にした。親として我が子を先に逝かせるのは、情けない想いもある。あるが、間違いなく俺が勝手にこの世に送り出した彼女の生涯を見届けられたことについては、安心感も確かにあるんだ。彼女が自身の命を生き切ったことを確かめられたんだからな。


享年三十二歳十ヶ月と二十五日。地球人からすれば短いが、八歳になる直前にえいを生んだからな。その四倍の時間だったわけで、マンティアンとしては十分に生きたと思う。


おやすみ……めい……


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