玲編 命が強い

だが、牙斬がざんとは違い、エレクシアの攻撃に反応できなかった時点で、龍昇りゅうしょうもまた、あくまで生物の範疇に収まる存在であることが確認できたと言っていいかもしれない。


それは不幸中の幸いか。


れいに応急処置を施すきゅう号機と拾弐じゅうに号機を背にし、エレクシアは龍昇りゅうしょうを決して近付かせなかった。茂みの中から龍昇りゅうしょうが隙を窺うものの、その隙がない。


当然だ。周囲に配したドローンを含め、きゅう号機や拾弐じゅうに号機の、


れいに応急処置を施す作業には用いていないセンサー>


も利用して、<死角のない空間認識>を発揮してるんだからな。つまり、いくつもの目や耳を使ってあらゆる角度から常に龍昇りゅうしょうの存在を把握しているんだ。人間をはじめとした<動物>には決してできない真似である。


龍昇りゅうしょうの方も、馬鹿じゃない。まったく隙を見せない相手に、しかもとんでもない一撃を食らわしてくる相手に、無謀かつ無策で突っ込んでくるようなこともしなかった。


しばらくそうした後、諦めてその場を立ち去った。できればチップを付けたかったが、手持ちがない。なので当面は警戒を強めて対処するしかないか。


エレクシアはドローンを操り、龍昇りゅうしょうの動きを監視する。逃げたと見せかけて改めて襲ってくる可能性もあるからな。しかし、龍昇りゅうしょうは確かにめいの縄張りから出て行った。


一方、イレーネが対応に向かった龍準りゅうじゅんも、彼女を見た途端、引き返していった。賢明な判断だよ。


こうして脅威は去ったが、問題はれいの容体だ。


完全ではないものの止血も行い、わずかに時間の余裕ができた。そこでエレクシアが彼女を背負って俺達のところに戻る。あとは治療カプセルに入ってもらって回復を図るんだ。


でもその前に、


「どうだエレクシア。れいの胎児は無事か?」


問い掛ける俺に、


「はい。心音は捉えられています。流産の兆候も見られません」


との返事。


「よかった……」


「本当によかった」


俺もシモーヌもホッとする。異変に気付いて通信を繋げて来た久利生くりうとビアンカとあかりも、ホッとした様子だ。


いやはや、さすがに頑健だな。命が強い。


そしてエレクシアに背負われて戻ってきたれいを、早速、治療カプセルへと収容する。そこで詳細な診断が行われ、頸動脈が断裂していたものの処置が早かったことで命に別状はないとのことだった。


それが終わったところに、えいも戻ってきた。めいは、きゅう号機と拾弐じゅうに号機がその場でバイタルサイン等を確認。問題がないと判断すると、自分の住処へと戻って休んだ。


やれやれ、緊張させられたが、結果として犠牲者が出なくてよかったよ。


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