玲編 新とレトとパパニアンの子供

そして最近、アカトキツユ村の近くに、一人のパパニアンが近付くようになっていた。子供だ。レトと変わらない年齢くらいの。それが一人で、あらたとレトがいつも食事をしている木から果実を取って食べていた。


普通に考えれば縄張りを侵す行為だが、あらたはそれを責めることがない。何しろ自分とレトの二人だけで食べきるには多すぎるからな。食べきる前に大半が熟し過ぎて地上に落ちてしまう。だから敢えて食べたい者がいるならそっとしておいてくれるんだ。


もちろん、自分達が食べる分まで奪われるとなれば抵抗もするんだろうが、そもそも他のパパニアンはあんずとますらおやドーベルマンMPMを恐れて基本的には近付かない。敢えてその恐怖を抑え付けてでも近付かないといけない事情がある者や、逆に危険を省みない無謀な者が来るだけで。


しかしその子供のパパニアンは、明らかに後者ではなかった。おどおどした感じの雌だったんだ。その様子に、すぐにピンとくる。群れでイジメられてそれで逃げ出してきた個体だろう。その子は、アカトキツユ村に入っては来ないものの、他の動物達が恐れて近付かない辺りに、一人で居ついてるようだった。


この辺りは、さすがに一人でも野性で生きていけるだけの能力が備わってるだけはある。地球人の子供だと、この密林じゃあ数時間と生きていられないだろうしな。


そしてあらたは、その子のことも気になってるようだ。敢えて自分からは近付いていかないものの、自分のテリトリー内に居ついていることについて追い出そうとするような素振りも見せず、ただ見守っている。


彼も、その子がレトと同じだと見抜いているようだ。


それを俺達も見守ることにした。その子があらたの庇護を受け入れるならそれでよし、このままの距離感を保って一人で生きていこうとするのならそれもよし。当人の判断に任せるさ。


しかもレトも、その子のことが気になっているようにも見える。やはり自分と同じだということを感覚的に悟ったのかもしれない。


自分とあらたが果実を食べている木に近付いても威嚇するでもなく、ただ見ているだけ。まるで、


<お互いに相手が気になっているのに、共にシャイで声を掛けられない男の子と女の子>


って感じにも思えて、微笑ましいじゃないか。


うららにアプローチを掛けていた若い雄は相手にもされてなかったが、こちらはまんざらでもなさそうだ。このままアカトキツユ村の住人が増えてくれたら俺としても嬉しいな。


なんてことも思ってしまうよ。


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