玲編 誉達の縄張り

新暦〇〇三五年九月二十日




めいの縄張り内で姿を隠した龍準りゅうじゅんは、その後、消息を捉えられなかった。こっちの警戒網の外に出てくれたのならそれでいいんだが、きゅう号機や拾弐じゅうに号機を恐れなかったという事実から何とも言えない<予感>めいたものがあり。警戒を緩める気にはなれなかった。杞憂で済めばそれでいいんだ。


そんな風に龍準りゅうじゅんという懸念材料もありつつ、それでもめいは平穏に日々を過ごし、そして毎日、ひかりに絵本を読んでもらいに来てた。


しかもれいえいも、一緒の時間を過ごす。


だがこの日、また、龍準りゅうじゅんの気配を捉えることができた。


ほまれ達の群れの縄張りの中>


で。


かくがメイフェアやイレーネとやり合ったこともあった通り、ほまれの群れの縄張りは、めいのそれと一部重なっている。だからかくが侵入してきたんだ。


今回は龍準りゅうじゅんか。


しかし俺は逆にホッとしてしまった。何しろ、メイフェアが万全の状態で警護に当たってくれているからな。


「メイフェア。なるべく怪我をさせないように追い払ってくれ。ただし、万が一死なせても責任は問わない」


と告げる。


「了解いたしました」


ほまれ達のことにあまり触れずにこれたのは、一にも二にもメイフェアのおかげだ。彼女が完璧に警護してくれるから、あくまで、


<同じパパニアンの群れとの小競り合い>


がある程度で済んでいたから、特に触れなきゃいけないような出来事がなかったんだ。もちろん、高齢の仲間が亡くなったり子供が生まれたりってこともあったが、それらはすべて、ほまれ達自身で対処できることだったしな。


後はまあ、群れの実質的なボスの役目はとどろきが行ってるって感じなだけか。ほまれがずっと位置取ってた場所にとどろきが座して、ほまれはその後見人みたいな感じになっていたんだ。なので、実質、隠居状態ではある。


ただ時折、仲間内でのもめごとで、最終的にほまれが出てこないと収まらない時もあり、そういう意味ではまだ完全に勇退とはいかないようだ。


そんなほまれ達の平穏を守ってくれている<最強戦力>メイフェアが、龍準りゅうじゅんの前に立ちはだかる。


すると龍準りゅうじゅんは、彼女の強さが分かるのか、一気に攻め込んでは来なかった。


慎重に間合いを図るような感じでじりじりと横移動している、かくでさえここまで慎重じゃなかった。マンティアンの本能に従って、彼女に襲い掛かったんだ。で、見事返り討ちに。


なのに龍準りゅうじゅんは、そうじゃなかった。


ちなみに、この事態も有り得ると想定はできていたので、メイフェアにも、龍準りゅうじゅんにチップを埋め込むためのシリンジ式注入器とチップを携帯してもらっていて、彼女の手にはそのシリンジが握られていたのだった。


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