玲編 本当の気持ち

新暦〇〇三五年九月十三日



龍準りゅうじゅんを見失ったものの、めいは当然、所在を確認できるので、彼女を守るのであればそちらを警護していればいいし、あまり気にしないようにする。


一方、めいの方は、食欲もあまりないのか、最近はもっぱら鳥や小動物を餌にしているようだ。猪竜シシが間合いに入ってきても見向きもしない。


その様子に、じんのことを思い出していまう。じんも最後の一週間ほどはまったく飲まず食わずだったもんな。めいも同じようになるんだろうか……


いよいよ<自分の子>との別れの予感に、腹の奥底の辺りになんか硬いものが沈んでるような感覚がある。


生きている限りは、いずれ必ず迎えるものだ。むしろ俺の勝手で送り出した子供達の人生を見届けられるなんて、ありがたいことじゃないか……


そう自分に言い聞かせるんだが、ダメだな……やっぱり納得はできんよ……


錬是れんぜ……今は何を言っても空々しいだけだと思うけど、私も一緒に受け止めるから。あなたは一人じゃない」


シモーヌがそう言ってくれる。その彼女の労わりに、胸が熱くなる。


「……ありがとう……」


さらにひかりも、


「私達のことを見届ける責任を果たす時が来たってことだよね」


言ってることは厳しいが、言い方はとても穏やかで。


「ああ……そうだな……」


そうなんだ。ひかりの言うとおりだ。俺はその責任を果たすと覚悟を決めたんだ。


めいは、幸せだったと思うか……?」


子供の頃からめいと一番仲が良かったひかりに尋ねる。すると彼女は、


「さあね……私はめいじゃないから、めいの本当の気持ちなんて分からない。分からないけど、ただ、彼女は自分の生まれを後悔はしてないと思う。それは感じる。かくと一緒にいられて、えいせいが生まれて、満足してるとは感じるんだ。しかも、えいせいも元気だしさ。少なくとも不幸だったとは、私は思わない」


きっぱりとそう言ってくれた。その言葉に救われるような気持ちはある。


そうだ。めいめいで、他の誰でもない。彼女の本当の気持ちは彼女にしか分からない。


だが、今日もまた現れた彼女にひかりが絵本を読んであげて、それを俺が近くで見守っていても、めいは俺に対して敵意を向けては来ない。俺を恨んでるわけじゃないんだという実感はある。


めいが落ち着いているから、れいえいも、一緒に絵本の読み聞かせを聞いてられるんだろうしな。


できればこのまま、平穏に最後を迎えてほしいと思う。見送るにしたって、めいが苦しんだり辛そうにしてるのを見たくはないよな。


なんだかれいえいも、めいの晩年を見守ってくれてる気がするよ。


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