玲編 新たなマンティアン

新暦〇〇三五年九月十二日




<ヘンゼルとグレーテル>


<赤ずきんちゃん>


それ以外のものも、多くが本当に陰惨で救いがなくて、『教訓めいた』という以上に、その原典になった話が生まれた当時の世情や実際に起こったのであろう事件が思い起こされて、悲しくなるよ。


正直、地球人のどうしようもない部分が塗りこめられているようにさえ感じる。


なのに、ひかりはそれをまるで<母親>のような穏やかな表情で穏やかに読み聞かせるんだ。


まあ、マンティアンの生態を思えばこのくらいはまだまだ優しいのかもしれないけどな。


ひかりが絵本を読み終わると、めいは静かに密林へと帰っていく。れいえいも、自分達の部屋に帰っていく。




それが半月ほど続いたこの日、密林の中に監視カメラとして配置していたマイクロドローンが、<望まれざる客>の姿を捕らえた。


「マンティアンか……」


そうだ。若いマンティアンが、本当に久々にめいの縄張りに現れたんだ。


しかしめいはいつものようにひかりに絵本を読んでもらおうとして俺達の集落に向かっていた。


なので、ドーベルマンDK-aきゅう号機と拾弐じゅうに号機を向かわせる。普通はその異様な姿を見ると警戒して遠ざかってくれるからだ。


なのに、その若いマンティアンは、ドーベルマンDK-a二機を見ても、怯む様子さえなかった。


「こいつ……ドーベルマンDK-aを見慣れてる……?」


ずっと哨戒で密林の中をうろうろしてたからな。いずれはそういう個体も出てくるだろうとは思ってたし、実際、他の動物ではドーベルマンDK-aを恐れないのも出始めてはいた。だが、マンティアンでは、かく以外では初めてだな。


……いや、他にもいたか。


龍然りゅうぜん……」


ふとその名が思い出されて、口を吐いて出てくる。けれど、それに対してエレクシアが、


龍然りゅうぜんの子である蓋然性、七十五パーセント。身体的特徴から龍然りゅうぜんの遺伝子を受け継いでいる可能性は高いですね」


と言い放った。


「なんだと……!?」


「そんな……!」


俺とシモーヌは思わず声を上げてしまった。いや、龍然りゅうぜんが追い払われてからどうなったかは確認が取れていないから、普通に番って子を生した可能性は十分にあるとは思う。または、俺達が龍然りゅうぜんの存在を認識する以前にできた子の可能性も否定はできないか。しかしその子供がこうしてまた戻ってくる可能性は、決して高くないだろう? そりゃ、あくまで理論上はゼロじゃないんだろうが。


まったく。あの龍然りゅうぜんの血を受け継いだ個体なら、龍然りゅうぜんの身体能力も受け継いでいても不思議はない。完全にはそのままでなくても、並のマンティアンよりも能力が高いかもしれないな。


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