玲編 赤ずきんちゃん

『けれど、隣村に住む赤ずきんちゃんは、その<人食い伯爵>のことを知りませんでした。村の人々が伯爵の報復を恐れ、口外しなかったからです。


そして赤ずきんちゃんはおばあちゃんの家を目指して歩きます。この時にはもうすでに人食い伯爵によってお婆ちゃんは殺されて食べられてしまっていたことも知らずに。


伯爵が赤ずきんちゃんのおばあちゃんを食べた後始末をしていたところに哀れにも赤ずきんちゃんが間に合ってしまい、伯爵は慌てておばあちゃんのベッドに隠れました。


赤ずきんちゃんは問い掛けます。


「おばあちゃんおばあちゃん。どうしてそんなにお手々が大きくなったの?」


「それはね。あなたをしっかりと抱き締めるためよ」


「おばあちゃんおばあちゃん。どうしてそんなに声が太くなったの?」


「それはね。あなたにお歌を聞かせてあげようと練習を張り切り過ぎたからよ」


「おばあちゃんおばあちゃん。どうしてそんなにお口が大きくなったの?」


「それはね。お前を美味しくいただくためさ!!」


赤ずきんちゃんと言葉を交わしているうちに欲望が抑えきれなくなった伯爵は彼女に襲い掛かり乱暴しました。けれどその時、おばあちゃんの家のドアが乱暴に開かれ、猟銃を構えた男が、


「伯爵! よくも女房と娘を食ったな!! 今こそ俺がお前に復讐してやる!! これが神の裁きだ!!」


叫びながら猟銃を撃ちました。弾を込め直し、何度も、何度も。復讐心に囚われた男には、赤ずきんちゃんの姿は目に映っていなかったのです。


こうして伯爵は死に、その中で赤ずきんちゃんも猟銃の弾を頭に受けて死にました。


さらに伯爵と赤ずきんちゃんを殺した男も、猟銃で自分の頭を撃ち、みんな死んでしまったのです。


だけどそのおかげで人食い伯爵は死に、村に平和が戻ったのでした。


めでたしめでたし』




……めでたいか? これ?


いや、かつて、著名な絵本作家がまとめて印刷された絵本になる前の、原典の一つになったと思われる手描きの絵本のそれに近い解釈で大人向けに書かれた絵本とはいえ、何度聞いても酷い話だと思う。


加えて、従来、原典とされていた民話や伝承では、オオカミじゃない他の動物だったりしたらしいもののたいていは<凶暴な獣>だったものが<人間の伯爵>で、しかも赤ずきんに乱暴した上で食べようとしていたとか、生々しすぎるだろ。


エレクシアによると、新たに発見された<手描きの絵本>にそういう内容のがあって、その絵本が描かれた地域の、貴族に対する不平不満ないし実際に起こった事件を基に、筆者の解釈によって描かれたものの一つだと言われているそうだ。


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