閑話休題 ジャック

新暦〇〇二九年十月二十七日




その日、インパラ竜インパラを中心とした草原に住む草食動物を襲った感染症によるパンデミックは獲物の激減という事態を引き起こしたことでレオンやオオカミ竜オオカミを追い詰め、そうかい、そしてりん達にとっての大きな危機として降りかかった。


だがそれは同時に、襲い掛かった側のレオンやオオカミ竜オオカミにとっても、


<生きるための選択>


として行ったことのはずだった。


そのオオカミ竜オオカミの群れのボスについては、


<ジャック>


と仮に名付けられていた。


ジャックは他のオオカミ竜オオカミよりも若干体が大きく力が強く狩りが上手かったことで結果としてボスの座に収まることになったが、実はあんまり気が強いわけでも勇猛なわけでもなかったようだ。


それよりは、オオカミ竜オオカミとしては異例なほど仲間想いで子供のことも気に掛けるタイプだったらしい。


『力も強く狩りも上手く仲間想い』


なるほどボスとしては申し分ない個体だったんだろう。


なのに、自然ってのは本当に無慈悲だ。草原で大発生した疫病は瞬く間にインパラ竜インパラを中心にした近似種の草食動物らに広まって命を奪っていった。


その疫病はオオカミ竜オオカミら肉食動物には感染しにくく、しても重症化しなかったために草食動物の多くが死んでも肉食動物の数は減らず、バランスは大きく崩れた。


それでも最初は、病死したインパラ竜インパラの屍肉を食うことで何とかなっていたもののそれらを食い尽くすとたちまち獲物が不足。同じく感染を免れた猪竜シシ土竜モグライタチ竜イタチなどを獲物としたもののやはり数がまったく不足しており、やがてジャックの群れも飢えに苦しめられるようになっていった。


子供達は痩せ細り、雌は卵を産まなくなり、老いた者達は次々と倒れていく。


死んだ仲間を食うことでかろうじて凌ぐも、それも長くは続かない。そんな中で縄張りを接していたオオカミ竜オオカミとの間で衝突が発生。こちらの群れの子供が襲われて食われたのだ。


これに対してジャック達も応戦。襲撃側のボスをジャックが倒すことで勝利した。


ボスと有力な個体の大半を失った襲撃側の群れの生き残りはジャック達に下り、一つの大きな群れとなった。


しかし、群れが大きくなるとさらに多くの獲物が必要になる。その事実は覆らず、遂にジャックは決断。得体の知れない獣らが徘徊する場所を越えて、獲物が集まっている場所へと進行を開始したのだった。




だが、その決死の決断も、ジャックの死と半数近い仲間を失ったことで瓦解。群れは散り散りになった。


厳しい結末だが、これが生存競争というものなのだろう。


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