閑話休題 音と菱

かいのパートナーの一人であるおんは、前のボスの末娘、つまりそうのパートナーであるけいの妹でもある、ちょっと、いや、かなり変わったレオンだった。


たくをさらにおっとりとさせた上に<ド天然>属性を加えたと言うか、とにかく独特の振る舞いをするレオンだったんだ。


花に興味があるらしくて、狩りよりも気になる花を眺めてることもある。しかも、身を隠して気配を消すということもしないので、獲物に近付くこともできないという、レオンとして生きていくには致命的な<欠陥>を持ってもいた。


なのにかいは逆に彼女のそういう振る舞いを逆手に取って<囮>として使っていた。敢えて獲物に彼女の存在を察知させることで動きを誘導するんだ。この辺りはたくもそうだったな。レオンとしてはおよそ常識はずれな、普通は足手まといとして群れから追い出されそうな彼女達のことも、かいそうはちゃんと役に立ててくれてた。


それでいて、おん自身は、実は決してレオンとして弱いわけじゃない。それどころか、せんと比べても引けを取らないくらいに強いんだ。なのに、性格がそれだから強さが非常に分かりにくい。


けれど、他の群れから巣立って新しくボスの座を射止めようとしていた若い雄がそうに戦いを挑んだ時、その戦いに割って入って若い雄を不規則な動きで翻弄して圧倒したりということも。


そんなおんには、かいとの間にくんという息子がいる。母親が非常に風変わりなレオンだったことで多少は影響も受けたかもしれないが、レオンの群れは基本的に雌が総出で子供を育てるので、そちらの影響も当然受け、おおむねまあ<普通>の範囲内には収まってた気がする。


そのくんが乳離れした頃におうに連れられたりょうが群れに加わり、止まりかけていた母乳が再び出始めたおんが主にりょうの世話をする形になった。


とは言え、さっきも触れたようにレオンは群れの雌が総出で子供を育てるため、まあ、おんはあくまで<母乳係>といった感じだったかもしれないな。


そうしておんの乳をもらって生き延びたりょうも、もう立派な一人前のレオンになりつつある。いつ巣立ってもおかしくない。しかも、かいに似たタイプに育ち、もしかするとこのまま巣立たず群れにとどまり、かいの後を継いでボスの座に収まる可能性も出てきたようだ。


加えてりょうは、おんのことが大好きだ。雌としてというよりも、


<母親が大好きで甘えたい息子>


という印象しかない。平たく言えば<マザコン>ってことになるだろうが、まあいいさ。


この辺りもどうするかはかい達の問題なので、俺はなるべく干渉しないようにと思ってる。


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