閑話休題 沢

新暦〇〇三五年五月三日




そんなこんなで、ケイン達をビクキアテグ村に迎えることになった一方、去っていく命ももちろんある。


ビアンカが自家受精により卵を宿したのが判明しその対応について俺達が考えていた中、そうの嫁の一人であるたくがひっそりと息を引き取った。


数日前から巣の中でうずくまったまま動こうとしなかったのだが、回復することなく眠るように、な。


かいの嫁であったほんが去年亡くなったから、年齢的にはそろそろだとは思っていた。だからそれほどショックはない。


ほんが亡くなった時にかいはとても悲しそうな様子だったが、そうはまったく平然としていた。


だが、レオンでもたまに見られる、


『死んだ仲間を食う』


という行為には至らず、ドーベルマンMPMがたくの亡骸を収容しようとした時にも、別に邪魔をすることもなかった。ただ、警戒している仲間達より前に立ち、睨み付けるようにして見守っていただけだ。


もしかするとそれが彼なりの悼み方だったのかもしれない。


かいのように分かりやすく悲しみを表すことはなくても、彼はちゃんとたくを愛していたんだと思う。ただ、かいとはタイプが異なるリーダーだというだけのことだろう。


ほんが埋葬された場所の隣にたくが埋葬されると、そちらにじっと視線を向けていたりもした。




そんな風に去る者もいれば、当然、新たに仲間に加わる者もいる。


おう>という雌が、そうの嫁になってたんだ。


おうは、疫病によるインパラ竜インパラをはじめとした草食動物の集団死をきっかけに起こったレオンやオオカミ竜オオカミらとの衝突の際に生き残ったレオンの雌の一人で、そうかいの群れに合流していた者だった。だから加わってからは六年近く経過しているが、合流した時点ではまだ子供だったからというのもあるだろう。それが成長して嫁として受け入れられたということだな。


性格的にも能力的にもごく一般的なレオンで、おっとりとした印象だったたくとは少し違うが、もちろんまだ若く健康そうだからまたそうの子供が生まれるかもしれない。


なお、おうと同じ群れからこちらに加わったのには、


きん


すう


りょう


の三人がいる。きんすうは雌だが、りょうは雄である。ただし、おうに連れられて合流した時にはまだ赤ん坊だったことで、おんに育てられることになった。


そんなりょうもまあまあ立派な十代半ばくらいの少年に育ち、そろそろ巣立ちの時期を迎えているだろう。実際、そうかいが巣立ったのはさらに若かったしな。


こうして、そうかい達のところでも様々なことがある。


みんな、生きているんだ。


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