灯編 六本足のキューピッド

新暦〇〇三五年七月二十日




そうして、ケイン、イザベラ、キャサリンの三人が正式に加わり、ビクキアテグ村はまた少し大きくなった。それを見て、あかりが言う。


「なんか、私も子供が欲しくなってきたかな」


なるほど確かに、ルコアをはじめとして、未来みらい黎明れいあ素戔嗚すさのお、ケイン、イザベラ、キャサリンと、大人三人に対して子供が七人という構成で、しかもみんな、安心して暮らせているんだ。


するとビアンカも、


「今は私も子供達のことで手一杯だから、少佐のこと、任せてもいいよ」


と、内心では決して穏やかじゃないのは事実だとしても、それでも『あかりなら』ってことでそう言ってくれた。


これまでにも何度も言ってきたことだが、野生における<ハーレム>は、


『雄が複数の雌をはべらせている』


わけじゃない。あくまで、


『複数の雌が優れた雄を共有してる』


だけなんだ。決して雄にとってばかり都合のいい仕組みじゃない。それを勘違いした地球人があれこれ言ってるだけでしかない。だから、久利生くりうをビアンカとあかりが共有するのは、ここじゃ何の不思議もない。


『何人もの女性をはべらせて不快だ!』


なんて戯言もここには届かない。地球人の価値観を押し付けるのはやめることだ。


ここにいる<地球人>は、俺一人。他は全員、<朋群ほうむ人>なんだよ。朋群ほうむ人には朋群ほうむ人の常識が生まれつつあるんだ。野生がすぐ傍にあるそれがな。


何千年か後にはまたそれも変わってくるかもしれないが、少なくとも今は、ビアンカは久利生くりうあかりと共有することを選んだ。その選択に難癖を付ける権利は誰にもない。


「さあて、そういうことなら、久利生くりう、覚悟してもらうからね」


ニヤアとどこか凶悪さも感じさせる笑みを浮かべつつ言ったあかりに、


「お手柔らかに頼むよ。僕は本当は小心者なんだ」


久利生くりうは苦笑いを浮かべる。


父親としては娘のそういうのに対して複雑な心境がないと言ったら嘘になるが、これも結局は<地球人の感覚>でしかないからな。野生の動物はそんなこといちいち気にしないだろう。


で、ケイン達のための<育児室>に連なる<前室>だったものを今度は、


久利生くりうあかりの愛の巣>


へと作り変えて、いよいよそういうことになったってわけだ。




じゅんの時と同じように、なんだかんだと周りを取り持つだけで自分は、ってことになるのかとも思ったが、ある意味、あかり自身にとっても、


<年貢の納め時>


ってことだったのかもしれないな。


後で聞いた話だと、実は、きたるを見送った時にはそのつもりだったらしい。ただそれでも、どこか踏み切れなかったそうだ。『ビアンカの二人目の子が来たらその時に……』とか考えて、先延ばしにしようとも。


快活で大胆なように見えるあかりにも、そういう一面があるってことだ。


なのに、次に来たのはなんとケイン達だったという。本当に思いがけないことがおこる世界だよ。それを思うと、いろいろ吹っ切れたというのもあったらしい。


その踏ん切りを付けさせてくれたケイン達は、ある意味じゃ、


<キューピッド>


だったのかもしない。


<六本足のキューピッド>


だな。


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