灯編 ビクキアテグ村という世界

新暦〇〇三五年七月十五日




そんなこともありつつ、ケインは自ら、<ビクキアテグ村という世界>を知ってくれていった。未来みらいとは距離も保ちつつ、黎明れいあとも基本的には距離を保ちつつ、


「こんにちは、ケイン♡」


と、ルコアにも受け入れてもらえて、


「よろしくね」


久利生くりうとも間近で挨拶できるようになって。


なにより、ドーベルマンMPMやモニカやテレジアやハートマンやグレイが近くにいても、まだちょっと怖がってる様子はありつつも、逃げ回ったりはしなくなった。


そしてケインは、特にビアンカとあかりに心を許しているようだ。


しかも、


「あーり……」


と、あかりに抱かれた状態で口にして。


「え? もしかして私のこと?」


あかりがぱあっと笑顔になって問い掛けると、再び、


「あーり……」


はっきりとそう言った。『ビアンカ』よりも言いやすかったか。


「ありがと~! ケイン~♡」


嬉しそうにテンションを上げるあかりの様子に、ビアンカが、


「いいな~……私がママなのに……」


黎明れいあに授乳しながら少しヤキモチを妬いてみせた。するとあかりは、


「いいじゃんいいじゃん。ビアンカはそうやって黎明れいあにおっぱいあげられるんだしさ」


「ニシシ♡」と悪戯っぽく笑う。




こうしてケインがようやくビクキアテグ村に馴染み始めた頃、いよいよ、イザベラとキャサリンも、<育児室>から出ることに。


ケンカは相変わらずなものの、咄嗟の場合にも<噛み付き>を使わなくなったんだ。手でわちゃわちゃとお互いをはたく感じかな。しかも、


「セシリー」


「ビアー」


セシリアとビアンカをそう呼ぶように。実際の発育も実はケインよりも上ということかもしれない。


他のみんなに対して警戒を抱いてたのも、当日だけだった。自分達に対して攻撃的でないことをすぐに察し、堂々と振る舞う。


ただ、未来みらいだけがケインに対してと同じくやや警戒してる様子を見せてるからか、お互いに身構えたりもするが。


これについては引き続き、ドーベルマンMPMやモニカやテレジアやハートマンやグレイに対処してもらうことにしよう。もし衝突しそうになった時には、間に入ってもらう形で。


そんな妹達を、ケインはやっぱり少し腰が引けた感じで見ていた。<お兄ちゃん>としては少々情けないように見えても、別に構わないさ。勇猛であるだけが優秀さの証じゃない。


「大丈夫だよ、ケイン。私の傍にいれば大丈夫」


あかりはそうケインに声を掛けてくれる。するとケインも、安心したようにあかりに頬を寄せる。


体も、生まれた時に比べてもう三倍以上の大きさになってきている。


いよいよビクキアテグ村も賑やかになりそうだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る