灯編 本当に嬉しいこと

そう言えば、まどかが保護された時、なんと妊娠もしていないのに母乳が出るようになったひかりを母親役として育てることになったんだが、一方であかりまどかを抱くとぐずり出してしまい、


『なんか悔しい。自信なくすわ~…!』


と言っていたのが、未来みらいはまったくその辺りは平然としていたな。まあ、未来みらいが生まれたばかりの頃は母親であるきたるがずっと片時も離れず世話してたから、あかり未来みらいに触れられるようになったのはそれなりに成長してからだったってのもあるかもしれないが。


そしてかつてまどかがぐずり出してしまったことで軽く落ち込むあかりに対して俺は、


『気にしなくていい。まどかひかりを母親と認識したというだけのことだ。それに、あかりが穏やかに接してくれてればそのうち危険な相手じゃないってことが伝わって安心してくれる。そこで変に意識して緊張すればそれを赤ん坊も察してしまって不安になるんだ


心配しなくても、俺にもできたことだ。あかりにもできるようになる。焦らなくていい。子供の前では穏やかな気持ちでいることが大事なんだ。焦りやイライラは禁物だぞ。


だいたい父親なんて自分が生んだわけでもないのに<親>になるんだぞ? それを思えば接し方次第で赤の他人でも<親>にもなれる。


相手をちゃんと人間として敬うことができれば、後は『何とかなるなる』って感じで軽い気持ちでいればいい。それがコツだよ』


そんなことを言っていたのを、傍にいたセシリアが記録してくれていた。まどかについて記録を整理してる時に見返したものの中にあったものだ。


いやはや、我ながら偉そうなことを言っているなと気恥ずかしくなる。


ただ、あかりは、未来みらいに対してもルコアに対しても、『相手をちゃんと人間として敬う』ことができていて、俺の言ったことを理解してくれてるのが分かる。


俺は親として、自分の子供達に伝えようとしたことが実際にちゃんと伝わってるかどうかを確認する義務があると思ってる。なにしろ、口先だけで偉そうに言っただけで『教えてやった』つもりになって、実際にはまったく伝わってなかったのにやるべきことをやったと安心してしまう親が実際にいるそうだからな。


それじゃダメだろ? 仕事でも、引継ぎを適当に済ませてきちんと引き継げてなかったら責任を問われることだってあるだろ? 実際に責任を取らせられるところまではいかなくても、確実に顰蹙は買うだろう。それなのに<親>の場合はいい加減に済ませてもお咎めなしってのは、おかしくないか?


俺はそう思うし自分に言い聞かせてきた。


それがこうして実を結んでるというのは、本当に嬉しいことだよ。


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