灯編 あの頃

思えば、あかりがまだ赤ん坊だった頃に、コーネリアス号の乗員の一人であるクラレスの姿をしたヒト蛇ラミアが現れたんだったな。ばんが戦った<ビアンカの姿をしたヒト蛇ラミア>よりさらに大きかったから、現れてからそこそこ時間が経ってたんだろうというのが今なら分かる。


あの時はイレーネが合流してからもそれほど経ってなくて、彼女の右手右足の義手義足も、まるで絵本に出てくる海賊のそれのような簡素なもので、しかもイレーネのAIそのものの機能も今よりずっと損なわれた状態だったことで、結構、苦戦したんだった。


あと、ドーベルマンDK-a零号機も、できたばかりでヒト蛇ラミアと戦う羽目になって、いいところなく破壊されたってこともあったか。破壊された零号機は破片もほとんど残さず回収して再資源化して、後のドーベルマンDK-aの部品へと生まれ変わったけどな。そしてその時のデータも活かされてるから、まったく無駄にはなっていない。


その後にも、しんが妊娠、こうかんれんを生んだものの、れんは死産だったことで、その場でしんに食われてしまったなんてこともあった。野生ってものの現実を改めて目の当たりにした一件だった。野生動物にとっては、死産で生まれた子など、後産で排出される胎盤と同じで、妊娠出産で失ったエネルギーを補充するための恰好の<栄養源>でしかないんだ。


だから、庭に作ったれんの墓の下には、遺体はない。ただのモニュメントだ。それでも、れんという実の孫がいた事実を、俺に思い出させてくれる。


が、そんなことがあったのに、もう今じゃ、すべての孫や曾孫や玄孫やそれ以降については把握しきれてないんだから、人間ってのは本当にいい加減だ。その事実も、俺に突き付けてくる。


でも、それでいい。俺がその程度の人間だという事実を思い知るからこそ、増長せずに済んでるというのもあるわけで。


さらに、しんと番ったパルディアの<げん>が、パルディアの習性に従って姿を消したことで、しんこうかんを連れて俺達のところに帰ってきて、居ついてしまった。


で、この頃にまたようが妊娠してすいを生んだり、ドーベルマンDK-aろく号機を<親>と誤認してしまったらしい駿しゅんと出逢ったり、めいかくの間にえいが生まれたり、ようの娘であるしょうにもりょうが生まれたり、ほまれあおの間にはたもつみどりが生まれたり、ほむらさいが完全につがってしまったり。


そう言えばこの頃は、さいがよくあかりと遊んでくれてたな。年が近い姉妹だったからだろうが。しかし、あかりが見てる前で、ほむらといたしてたりしたのは、ちょっと困りものだったが。


まあでも、そういうのを身近で見てたことで、逆に慣れてしまったというのもあるかもしれない。


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