灯編 母親としての役目

目を覚ましたあかりは、ルコアやモニカと一緒に朝食の用意を始める。いい加減そうに見えるあかりではあるものの、最低限の家事はこなせる。まあ、


『自分のことは自分でできる』


という程度ではあるけどな。これは、ひなたもそうだし、未来みらいにもいずれはそうなってもらおうと思ってる。


性別に関係なく、『自分のことは自分でできる』のが大事だと思うんだ。特にこういう世界だとな。


野生の動物だって、基本的にはそうだ。成体にもなって自分のことが自分でできないような奴は、基本、生き延びられない。地球人だけだろ、


『いい年をして自分のことが自分でできなくても誰かにやってもらってなんとか生きられる』


なんてのはな。


居間に座り込んだままで『おい!』とか言うだけで箸の上げ下げまでやってもらえてたとか。俺から見れば普通に恥ずかしいことだけどな。しかも、<王様>とかの大きな力を持ってる者ならいざ知らず、ちっぽけな一家庭を維持するだけがやっとの人間がだぞ?


だから俺も偉そうにはしない。エレクシアやセシリアに身の回りのことをやってもらってるんだから、それについては感謝しかない。俺自身もできなくはないが、それこそ、俺一人の世話を焼くだけで精一杯だ。そんなので何を偉そうにできるというのやら。


あかりは、そんな俺に似てるのかもしれない。そうだな。ようを実の母親に持ち、しかし地球人の姿を持って生まれた所為で実の母親には育ててもらえず、代わりにシモーヌを<育ての母>として育ちながらも、やっぱり俺に似てるんだよ。




生まれた時のあかりは、地球人の赤ん坊と比べれば超未熟児と言われるものだったものの、アクシーズとしてはそれが普通で、すでに自発呼吸もできるし乳を与えれば飲むこともできた。


が、いかんせん、外見が完全に地球人の赤ん坊のそれだったことで、生みの母親であるように我が子として認識してもらえず育児放棄された。しかし、セシリアやエレクシアがいたことでその点は問題なく、育てることができた。


実の母親のようの母乳を搾乳して与えたりもしつつ、コーネリアス号に積まれていた粉ミルクも併用しつつ、シモーヌが母親としての役目を務めてくれていた。


そう言えば、それまで俺が<タカ人間>と呼んでいたのを<アクシーズ>と命名したのもシモーヌだったな。パパニアンやマンティアンやレオンもそうだ。以降、それに倣って種族名を付けていったりもしたが。


そんな中で、あかりはすごく元気にすくすく育っていってくれてた。


その彼女の存在が、シモーヌにとっても支えになっていたようだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る