灯編 社会

小さい頃、あかりは、あらたりんと一緒に、ひかりがイレーネに対して絵本を読んでやっている時に傍にいて聞き入ったりしていたこともあった。


そのあかりも、あらたも、りんも今はもうここにいない。それぞれの人生を選んで、去っていった。親である俺の下を去っていったんだ。ここに残ったひかりや、出戻ってきたしんや、完全に居座るつもりのほむらさいとは別の生き方を選んだ。


皆、<俺の子>なのに、自分で考えて自分で選んだんだ。去っていった子も、居残った子も、戻ってきた子も、な。


俺はそれぞれの選択を尊重する。全員、<俺の子>ではあっても、<俺の道具>でもなければ<俺の家畜>でもなければ<俺のペット>でもないんだ。俺の思い通りにはいかない。


その当たり前のことを受け止められる親でありたいと、俺は思う。


特に、<地球人に準じた人間>として生きることを選んだひかりあかりについては、


『気に入らない相手なら、肉体的にも精神的にも痛め付ければいい』


『他人を蹴落とし踏みにじり、必要なものは欲しいものは力尽くで奪い取ればいい』


なんてことを是とする人間にはなってほしくない。親から子へ、そんな考え方や振る舞いを受け継いでいくような社会であってほしくない。そんな社会をここに作りたくはない。


『気に入らない相手なら、肉体的にも精神的にも痛め付ければいい』とか、『他人を蹴落とし踏みにじり、必要なものは欲しいものは力尽くで奪い取ればいい』なんてのを親から子へと受け継ぐような社会がどうなったのか、記録が残ってる。


まったくの通りすがりの見ず知らずの相手に対していきなり殴る蹴るの暴行を加えることが珍しくなかったり、店の商品を堂々と奪い去りそれを『自分達の正当な権利だ!』と言い張るような者達が当たり前にいる社会になったそうじゃないか。


一度そうなってしまったものを改めていくことがどれほど難しいか、そういう時代を生きた人間にはきっと分かるんじゃないか? 『悪くなることはあっても良くなっていくことはない』と思ってしまうような感じじゃなかったのか?


だからこそ、最初からそうじゃないようにしていこうと俺は努力しているんだ。


<生存競争>と<悪意による犯罪>についても、明確に区別していかなきゃとも思ってる。それを混同すると、人間は自分に都合の悪い野生動物を皆殺しにしようとするからな。


それが結局、回り回って人間自身にも向けられることになると考えもせずにだ。


『自分に都合の悪いものは排除すればいい』


って考えれば、そりゃあ人間そのものが一番都合が悪いだろ。


人間にとってはな。


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