新編 穏やかな声

で、レトの対処をする<適任者>と言えば、まあ、第一候補は当然、<あらた>だよな。何より、うららを見てきた実績がある。


だから、すでに<透明な滑走路>の工事が始まっていて、二十メートルほどが完成していたから、決して余裕はないものの理論上は着陸可能だったことで、レトを乗せたワイバーン二型が、非常に緻密な制御によって失速寸前の低速で近付き見事にそこに着陸。万が一オーバーランした時に受け止めてもらうために待機していたますらおに頼る必要もなかった。


ちなみに、当のレトについては、鎮静剤を投与して眠ってもらっていた。下手に暴れられたりすると危なかったからな。


なお、<レト>という名前は、ドーベルマンMPMを制御しているコーネリアス号のAIが、便宜上、仮名として割り振ったものだったものを、そのまま正式に名前とした。


ワイバーンから下ろされ、ますらおによって連れてこられたレトを見ると、あらたがすぐに駆け付けてきた。しかも、そっと抱き上げて、そのまま屋根の上に。


鎮静剤が効いて眠っているレトを、あらたは、すごく優しく撫でてやっていた。


うららの件でもしかして懲りたりしていて拒絶するようだったら俺達のところに連れてきてもらうつもりだったが、その必要はなかったか。


あと、レトは<雄>である。なのでたぶん、今度はうららのようなことにはならないと思う。パパニアンにも同性のカップルはいるが、あらたりんと普通につがってたし、まあ、たぶん大丈夫だろう。


しかし、あらたの奴、りんとの間じゃ『子供なんて要らない』って言って譲らなかったクセに、子供の世話は好きなんだな。


まあその辺も、未来みらい素戔嗚すさのおの相手をしているビアンカでさえ、自分自身の子供を育てるとなると不安もあるそうだから、やっぱり、違うのかもしれないな。


俺の場合は、なんかそんなことを考える暇もなく次から次へとだったし、事情も違うか。


いずれにせよ、あらたはレトを受け入れる気満々のようだ。


そうして、夕方、鎮静剤の効果が切れて目を覚ましたレトが、


「ひゃっ!?」


見知らぬパパニアンに抱かれていたことで驚いて逃げ出したが、逃げようとした先もまったく見知らぬ場所だったことで呆然となり、そこに、あらたが、


「うあう……」


と声を掛けると、レトは、彼にしがみついてしまったんだ。


たぶん、レトが生まれてこの方、決して掛けてもらえなかったような穏やかな声だったからだろう。それで、直感的に、助けを求めてしまったのかもしれない。


もちろん、このまますんなりあらたに懐いてくれるとは限らないが、まあ、その時はその時だ。


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