新編 いつもの光景

真っ白だったはずの自分の体が、茶色のまだらに変化していく。なぜそうなるかを知らなければ、これはきっと本人にとっては恐ろしいことだろう。それこそ、


『自分はとんでもない病気に罹ったんじゃないか? このまま死ぬんじゃないか……!?』


と思ってしまう程度には。今のうららがまさにそれだと思う。


でも、厳密には違う。別に<死の病>でも何でもない。ただ、自分の体のメンテナンスを怠っていたことによる当然の変化だ。けれどそれを知らないうららは軽くパニックに陥ってしまった。


それを、ひかりが労わってくれる。そして丁寧にケアを行い、<虫除けの花や実を磨り潰したもの>を塗り、毛繕いを行う。


すると、みるみる白さを取り戻していく。


「ううあ……? うあ……?」


穏やかに自分を見つめるひかりに、うららが問い掛ける。


『治ったの? 治った?』


と。


「うん。治ったよ。もう大丈夫」


柔和に微笑むひかりが、改めて労わってくれる。これまでもずっと、ひかりうららを労わってくれていた。あらたが一番労わってくれてたが、その陰で、ちゃんと、ひかりも彼女を労わってくれていたんだ。


けれど、うららはずっとこれまで、あらたしか見ていなかったから、そのことに気付いてなかったんだろうな。あらた以外にも、自分をちゃんと見てくれてる人がいることに気付いていなかったんだ。


それは、ひかりだけじゃない。ひなたも、じゅんも、まどかもそうだった。まどかは幼さゆえに労わり方も拙かったかもしれないが、うららを大事だと思う気持ちに嘘はない。


うらら、お前はこんなにも愛されていたんだよ。お前があらたを愛していたのと変わらないくらいに、みんながお前を愛してくれていたんだ。


地球人の子供ならここで、ひかりに縋り付いて泣いたりするところかもしれないが、地球人のメンタリティを持つわけじゃないうららは、そんな風に分かりやすい変化を見せたりはしない。ただ、おとなしく毛繕いをされているだけだ。


ひかりが、全身の毛に丁寧に<虫除けの花や実を磨り潰したもの>を塗り込んでくれて、明らかに白さを取り戻しつつあったうららを、今度はひなたが毛繕いしてくれた。うららは、じっとなすがままにされている。気持ちいいんだろう。


さらにそこに、まどかも加わる。そうだ。それがいつもの光景だった。あらたにだけじゃなく、ひなたまどかにも、毛繕いをしてもらってたんだ。そのお返しに、うららひなたまどかに毛繕いをしてた。


するといつの間にか、うららひなたの頭を毛繕いして、まどかうららの毛繕いをしてという形に。さらにその後、今度はうららまどかの髪の毛を毛繕いして、ひなたうららの毛繕いをして。


本来の<いつもの光景>が、やっと戻ってきたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る