新編 異性への想い

モニカやハートマン、あんずやますらおは、イレーネに比べればずっと人間臭い反応も見せる。しかしそれは、


『セシリアの控えめな反応よりはちょっとだけ砕けた感じ』


というだけに過ぎない。そこに<心>はないんだ。


人間は、人間に似た反応を見せるものについてはついつい<心>の存在を見出そうとしてしまうらしいが、点が三つ逆三角形型に並んでいると<顔>に見えてしまうという<シミュラクラ現象>に似たものが、心理面にも存在しているとも言われているな。それっぽい反応をするだけでそこに<心>を見出そうとしてしまうとか何とか。


しかし、<シミュラクラ現象>でいくら顔に見えてもそれは顔じゃないのと同じく、<心>のように思えても<心>じゃないんだ。


なので、ロボットの役目は受け継いでいってもらう。


と同時に、何もかもロボット任せにするのも違うから、できることは人間がするようにも心掛けるけどな。


それを察してくれているのか、ひなたが、うららの後ろでただ佇んでいた。変に慰めようとするでもなく、励まそうとするでもなく。ただ傍にいてくれる。


『自分は傍にいる』


というのを、示してくれてるんだ。


これも、相手によっては何が適切なのかは、違うだろう。言葉によって慰めてもらえた方が届く者もいれば、それこそ抱き締めてもらった方が癒される者もいると思う。でも、うららひなたの距離感は、これがいいのかもしれない。人間並みの知能を持ち、言語を理解し、<関係性>というものを思考の形で認識できる上に、野生動物に近い感性を持つことで、この距離が一番安定しているというのを、感じ取っているのかもしれない。


今度は、うららが受け入れないかもしれないが、ひなたは少なくとも、彼女を大切に想ってくれているんだ。これまでもずっと傍にいて、彼女を見てきたから。


それが、<異性への想い>へと変化していくのかどうかは、まだ分からない。今はまだ、あくまで<姉弟>としての気持ちかもしれない。


でも、どうなっていくにしても、ひなたうららを労わってくれていることには間違いないんだ。それは、素直に感謝している。


ロボットに任せきりにするんじゃなく、可能な限りは、人間同士で何とかしなくちゃな。まあ、現状ではうららはあくまで<獣人>ではあるが。それでも同時に<家族>でもある。


なら、俺達がやるべきことは、ひなたのバックアップか。ひなただけじゃフォローできない部分をさらにフォローするという形で。


家族の中でそれができるのなら、赤の他人に迷惑を掛けることもないだろうさ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る