新編 俺の家庭の方針

自分が実際に子供を迎えて家庭を持って実感したんだが、家庭内で労わらず気遣わず罵り蔑み嘲笑うことでストレスを生じさせ、そのストレスを解消するために余所の家庭の人間を憂さ晴らしに利用することの正当性ってなんだ?


仕事とか学校に行ってる間に赤の他人、つまり<余所の家庭の人間>から罵られたり蔑まれたり嘲られたりするから、『やられたらやり返す』、いや、『他人もやってるから自分も』ってことで、憂さ晴らしに余所の家庭の人間を利用するってことか?


いやいや、おかしいだろう? 自分を罵り蔑み嘲ってくるその<余所の家庭の人間>も、つまり、自分のストレスの捌け口として憂さ晴らしとして八つ当たりとしてそういうことをしてるんじゃないのか? それと同じことをしようとしてるというのは、


『他人の所為にしている』


以外のなんだって言うんだ? 自分の行いを他人の所為にして正当化しようとしてるだけだよな?


俺はそれをやめようとしてるだけだ。幸い、ここにおける<余所の家庭>である<ビクキアテグ村>の住人達も、俺達に対して罵ったり蔑んだり嘲ったりしてこないからな。『他人もやってるから自分も』って話にはならないし。


それ以外の、<獣人>達が俺達に対して危害を加えようとしてるのは、地球人が他者を罵り蔑み嘲るのとは根本的に違って、ただの<生存競争>でありそこに悪意はない。善だの悪だのというものも、所詮は地球人がでっち上げた虚構の概念でしかなかったことが実感できたよ。自分に都合の悪いことについて<悪>というレッテルを貼りたいだけだというのがな。


今の惑星<朋群ほうむ>に、善も悪もないんだ。


例の不定形生物の中に潜んでいるらしい<人間を激しく憎んでいる(と思われる)何者か>とその影響を受けている個体を除けば、悪意自体が存在しない。皆、生きるために自分にできることをしているだけだ。


なら、悪意でそれに対抗する必要もないじゃないか。


いずれ、ここにも社会が生まれて<人間>が増えてくれば、なんだかんだとそこに善悪の概念が生じて悪意で他者を害そうとする者も出てくるかもしれないが、少なくとも今はいないんだから、『悪意を持った他者がいる』ことを前提にして、


『余所の家庭の人間を自分のストレス発散に利用する行為を正当化する』


なんてのもできないだろう?


うららが八つ当たりしようとしても、それは自分に掛かるストレスを何とかしようと足掻いてるにすぎない。なら、それは家庭内で対処する。


それが俺の家庭の方針だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る