新編 敵じゃない

うららにしつこくアピールを続ける若い雄に対してあらたが、


『お前みたいな軟弱者に娘はやれん!!』


的な態度で臨むのを見る限り、うららがパートナーとしてあらたに受け入れてもらえる目はもうないと俺はすごく感じる。


うらら、そろそろ気付こうぜ』


と思ってしまう。


ああ、もどかしい。


もどかしいんだが、だからといって俺が『もどかしくて見ちゃおれん!』と勝手なことをするというのは、俺自身の我慢強さが足りてないってことだと思う。


なにより、あらたうららのことを信頼してないってことだ。


『俺が手を貸してやらないとこいつらはなにもできない』


って言ってるのと同じだよ。


そんなわけでいつものように基本的に見守るだけにする。


それもそうだが、もふもふの白い毛皮に、長く垂れた耳。<ウサギのコスプレをした女の子>そのものの姿はやっぱり可愛いな。まあ、地球人なら完全な<おっさん>にあたるあらたも同じ姿なのがいささかあれだが。


いずれにせよ落ち着かない朝食だったが、木の実をいくつか持ち帰って、あらたも<定位置>に戻って持ち帰った木の実をゆっくりと食べつつ、まどかひなたと一緒に遊ぶうららを見守った。


三人揃って、集落中を縦横無尽に駆け回り飛び回る。それでいて、しんえいの部屋にはあまり近付かないのが面白い。しんはともかく、マンティアンのえいは、自分の射程内で動くものがいれば咄嗟に手が出てしまうこともある習性を持つ。それをまどかひなたもわきまえている。うららは純粋なパパニアンだけあってそもそもマンティアンであるえいを怖がってるし、同じくまどかひなたの父親である(実際に血が繋がってるのはひなただけだが)じゅんえいを恐れていることから、自然と避けるようになっていったんだ。


地球人の多くがクモやヘビを恐れるようにな。


これも、親が恐れてると子供も『クモやヘビは怖いもの』と学習してしまうらしい。


地球人同士の場合、こういう形で恐れられるのはあまり好ましくないものの、えいしんは本来、パパニアンにとっては天敵に当る存在だから、えいしんがむしろ例外なだけだし、二人とも、自分がまどか達に怖がられていることはまったく気にしてないから、まあ大丈夫だ。


それに、まどかひなたは、怖がっているものの、嫌ってはいない。これはじゅんも同じだ。本能的に恐れを抱いてるだけで、えいしんも仲間だということは理解してくれている。だったら別に問題ないさ。


一応、うららも『敵じゃない』ことは分かってくれてるしな。あらたが教えてくれたから。


『あいつらは、敵じゃない』


って。


とは言え、怖いものは怖いというのも無理に抑え付けるものじゃないしな。今の状態で構わないさ。


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