新編 威嚇

うららは、あらたの前では本当に可愛らしい仕草を取る。自分が元気で活発な雌であることをアピールしようとしてか、あらたが果実を食ってる目の前でぐるんぐるんと枝を使って回転して見せたり、ぴょ―んと木から木へと飛び移ったりというのをやってみせるんだ。


地球人みたいに、


『女性はおしとやかに』


みたいなのはなくて、やっぱり活動的で生命力に溢れてる方が実はモテる。元気な子を生んでもらわなきゃいけないからだろう。まあ、ほまれのパートナーであるあおみことは、どちらかと言えばおとなしいタイプだし(あおは、おとなしいと見えて実は芯の強い頑固者な一面もありつつ)、好みはそれぞれではあるものの、基本的にはそうだ。


要するに、<肝っ玉母ちゃん>になりそうなのがモテるって言えばいいのかな。


それで言うとうららは若干、引っ込み思案な面もある。まどかひなたと比べると、二人に引っ張られてって印象もあるんだ。それでいて、あらたの前では懸命にアピールもする。


健気な子だよ。


なのに、あらたの視線は、完全に、


<健やかに成長してる我が子をあたたかく見守ってる父親>


のそれなんだ。うららをまったく雌として見てない。そんな二人を、ドーベルマンDK-aはち号機やドローンが見守っていた。


俺も正直、うららのことが可哀想にも思えてくる。あらたに対して脈がないんだから、もう諦めた方がいいんじゃないと思ってしまう。その辺りを言葉で諭せないのがじれったい。が、我慢我慢。ここで俺があれこれしようとしても、余計なお世話だと思うし。


が、その時、


「きゃあっ!」


と声を上げたのがいた。


「!?」


それを耳にした途端、うららは一目散にあらたの方に駆け寄り、背中に隠れてしまう。


例の、うららにしつこくアピールを続けてる若い雄だ。ほまれの群れの雄なんだが、この件についてはほまれは完全に、


『我関せず』


を貫いている。いくら自分の群れの一員とはいえ、個々の恋愛沙汰に干渉はしないのは普通の対応だな。ボスのパートナーに対して色目を使ったりしたらさすがにぶちのめされたりもするものの、ほまれは基本的に、あおみことにしつこく絡むようなことがない限りは気にしないタイプだ。色目を使われたくらいでなびいてしまうようなのを選んでないという自信の表れかもしれない。実際、あおみことも、他の雄に言い寄られてもまるで相手にしないしな。


あおみことにとっては、ほまれ以上に<魅力的で優れた雄>はいないんだろう。


羨ましいぞ、ほまれ




なんてことはさて置いて、しつこい雄に、うららはげんなりしてるようだ。それを察すると、


「があっっ!!」


あらたが、突然、歯を剥き出して吼えて、若い雄へと飛び掛っていった。すると、


「きいっっ!!」


若い雄は、一目散に逃げていく。で、


『お前みたいな軟弱者に娘はやれん!!』


とばかりに、あらたは木の枝を大きく揺さぶって威嚇を続けたのだった。


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