ビアンカ編 かまってほしかった

とにかく、またビアンカが相手をしてくれるのが嬉しいらしく、素戔嗚すさのおの機嫌がすごくいい印象があった。


それでも、攻撃そのものは、手や指くらい食いちぎらんばかりの激しいものだったけどな。この辺りの<加減>については、まだ理解できてないようだ。


もっとも、ビアンカは完全に承知の上で油断しないので、問題はない。月経の影響も、それほどないようだ。


ビアンカに挑みかかる素戔嗚すさのおの姿は、ほとんど<じゃれついてる猫>でさえある。


そんなこんなで満足したのか、ビアンカに蹴り飛ばされて地面を転がった勢いのまま草むらに駆け込んで、そのまま去っていった。


「やっぱり、ビアンカにかまってほしかったんだな」


ドーベルマンMPMのカメラ越しに見ていた俺は、正直な印象を口にした。


「そうですね。自分に子供ができて、その子が素戔嗚すさのおみたいにかまってほしがってたら、満足するまで相手してあげなきゃと改めて思いました」


「僕もそのつもりだよ。とは言え、未来みらいにはあんまり好かれてないみたいだけどね」


などと、ビアンカと久利生くりうが揃って穏やかな表情でそう言った。


確かにな。親の勝手でこの世に送り出しておいて子供と向き合おうとしないとか、何を考えているんだろうと俺も思う。


『親にもやりたいことはある!』


『親にも自分の人生がある!』


とか言うかもしれないが、いや、実際にそういう言い方をしてるのはいたが、俺も、自分が親になったからこそその理屈には違和感しかない。


『やりたいことがある』とか『自分の人生がある』とか、いやいや、子供が望んでもいないのに勝手にこの世に送り出して強制的に人生を始めさせておいて、『かまってほしい』という<子供のやりたいこと>を蔑ろにしてなんでそんなに偉そうなんだ?


子供が親にかまってもらいたがるのなんて、ほんの数年のことだろう。


ひかりは、俺の膝に座って絵本を読むのが好きだった。


ほまれは、俺の体に登るのが好きだった。


そうかいしんしょうは兄弟姉妹でへとへとになるまで遊ぶのが好きで、あまり俺には甘えてこなかったし、めいに至ってはそれこそ母親のじんにべったりだったが、こっちはまあ、元々の習性がそうだったというのもあると思う。が、俺に甘えてくるのなら拒むつもりはまったくなかった。


みんな、俺の勝手でこの世に送り出したんだ。その俺が子供達を受け止めなくてどうする? なるほど野生の動物には、


『生むだけ生んでほったらかし』


という習性のもいるだろう。が、人間(地球人)は、


『他の動物とは違う』


んだろ? 他の動物の習性を言い訳にするなんてのは、いい大人のすることとは思えないな。


ビアンカも久利生くりうも、ちゃんとそれを分かってくれてるんだ。


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