ビアンカ編 成長と共に

新暦〇〇三四年三月九日




とにかく、ビアンカにかまってもらえたことが嬉しかったのか、この日を境に、素戔嗚すさのおの態度が一変した。


相変わらずやることはハードではあるものの、以前ほど殺伐としたものじゃなくなっていったんだ。表情も明らかに穏やかに……とまでは言えなくても、殺意を感じるほどじゃなくなったのも事実だと思う。


牙を剥いて飛び掛ってくるものの、本気で爪や牙を立てようとはしなかった。試しに手を掴ませてみたが、ただ握ってくるだけで、爪を突き立ててはこない。もちろん、爪を立てられたところで大丈夫だからこそ試せたというのも事実ではある。とは言え、その力は、未来みらいの比じゃなかった。体が大きい分、当然と言えば当然だが、ビアンカ自身がアラニーズじゃなかったら厳しかったかもしれない。普通の人間(地球人)じゃ、余裕で力負けしていただろうな。


それでも、確実に素戔嗚すさのおも手加減するようになってきたのは間違いない。


だからビアンカも、これまで以上に加減をするようにした。直接的な打撃についても、『叩きつける』と言うよりは、『押す』ことで彼のバランスを崩す感じだろうか。


その感じであっても、素戔嗚すさのおは綺麗に転がされてしまう。転がされても、彼はやっぱりすぐに体を起こして彼女に挑みかかった。


これが大体、十五分くらい続く。そして満足すると、引き下がる。


「ご苦労様、ビアンカ」


「お疲れ~!」


「お疲れなさい」


「お疲れなさいませ」


「お疲れさまです」


久利生くりうあかりとルコアとテレジアとモニカが迎えてくれると、ビアンカも笑顔で、


「ただいま」


と応えた。


俺も、


「お疲れさん」


タブレット越しに声を掛ける。


「明らかに素戔嗚すさのおが慣れてきてるな」


正直な印象だった。仲間にじゃれつく感じのそれになっていってるのが、俺にも分かる。


「はい、実際に手合わせしてても感じます。彼の目が、優しいんです」


ビアンカは嬉しそうにそう言った。正直、俺にはそこまでは分からないが、確かに表情は以前に比べると険しいものじゃなくなってるのは事実だと思う。


それと同時に、ビアンカの表情も柔らかい。月経も終わって体調がよくなったのもあるんだとしても、素戔嗚すさのおとの間に険悪なものがなくなりつつあるのが嬉しいんだろうな。


さりとて、素戔嗚すさのおの挑戦はこれからも続くだろう。


こういうのは、一ヶ月とか二ヶ月とかじゃ終わらない。成長と共に本人にとっての感覚の変化によって治まっていくものだろうなというのも、実感だ。


ルコアに続けて未来みらい素戔嗚すさのおと、大変ではあるものの、ビアンカ自身が楽しそうにしている分には、任せて大丈夫だろうなって気がするよ。


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