ビアンカ編 異常な個体

新暦〇〇三四年二月二十三日




そんなこんなで、ビアンカが素戔嗚すさのおの対応をするようになって、五日が経った。


なのに素戔嗚すさのおは、懲りることなく挑んでくる。まったくもってタフな奴だ。もっとも、普通に手加減してくれない奴が相手だったらとっくに死んでいてもおかしくないわけで、こうやってビアンカ達に出逢ったのは、運がよかったってことなんだろうな。


そしてビアンカも、しつこい素戔嗚すさのおの相手をしているうちに、少しずつ気持ちに余裕ができてきたようだ。


<テロリストの少年>は彼女が放った銃弾を受けて命を落としたが、素戔嗚すさのおはこうして生きている。彼女に対しては激しい憤りは見せつつも、そんな彼を死なせずに対処できていることで、記憶が上書きされていってる感じだろうか。


しかも素戔嗚すさのおの方も、ドーベルマンMPMではなく、ビアンカにばかり挑みかかるようになっていた。


たぶん、完全なロボットであるドーベルマンMPMと、アラニーズとはいえ生身であり<想い>を持つ彼女とは、別のものだという認識が生まれつつあるのかもしれない。


だからこそ、


『勝ちたい!』


のかもな。


とは言え、その攻撃は、少し油断しただけで腕の一本くらいは食いちぎられそうな、容赦のないものだけどな。人間(地球人)のような、


『拳を合わせることで友情が芽生える』


なんて単純なそれじゃないのも確かだろう。野生に生きる素戔嗚すさのおに、そんな発想はない。彼にしてみれば常に、


『生きるか死ぬか』


なんだと思う。思うんだが、彼にしても、ビアンカが自分を殺そうとしないのを利用しようとしてる感はある。自分が強くなるために彼女を利用しようとしてるっていう印象があるんだ。


素戔嗚すさのおは、テロリストじゃない。普通のレオンとして見れば<異常な個体>なのかもしれないが、その行動の根拠は、<歪んだ正義>でも、<自分を虐げる社会への憎悪>でもない。ただただ<生への渇望>であり、『生き抜くこと』が行動の根源であることは変わらないんだろう。別に死ぬために勝てない相手に挑みかかってるわけじゃないんだ。ただ、


『生きるためには勝てない相手には関わらない』


ってことが理解できていないだけで。


未来みらいが、ビアンカ達に挑みかかるのは、彼女達が自分の<仲間>であり、自分の命を奪おうとする相手でないことが分かっているからだ。仲間の中での自分の序列を確かめるために、力比べを挑んでるにすぎない。これもまた、おそらくは本能的なものなんだろうが。


それに対して素戔嗚すさのおの場合は、仲間でも何でもないのに対してだから、普通はここで死ぬ。運よく生き延びて成長できれば群れを築くこともできるかもしれなくても、できなければ子を残すこともなく孤独に死んでいくだけだ。


普通はな。


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