ビアンカ編 何をもたらして

久利生くりうに抱き締めてもらい少し落ち着いたビアンカは、意識が戻って自分の周りに誰もいないのを確かめた素戔嗚すさのおが自分の毛繕いを始めたのを見て、ホッとしていたようだった。


素戔嗚すさのおも、あれだけ打ちのめされたというのにまったくこたえていないようだ。あれだけビンタを食らったら、人間なら顔が痛くて口も開けられないくらいになりそうなのにな。


それだけ頑健だということだろうな。しかも、群れに戻ろうともせず、近くを通り過ぎようとしたネズミに似た小動物を捕らえ、その場で貪り出した。


本当にとんでもない奴だな。もう、群れの庇護は必要としてないのが改めて分かる。


普通に巣立つ年齢の半分くらいしかいってないぞ。


でも、そういう個体はまれに出るんだろうな。そしてそれが素戔嗚すさのおだったということだ。


だけど、本当に一人で生きていけるだけの力は備わっているのか? レオンとして。


確かに、今の素戔嗚すさのおよりもっと非力な動物だって普通に生きてる。素戔嗚すさのおが捕らえて餌にしたネズミに似た小動物だって、立派に生きてる。たまたま素戔嗚すさのおに捕えられた個体は命を落としたが、他の多くの個体は今もちゃんと生き延びてる。


だから、今の素戔嗚すさのおだって生きていけるのかもしれない。


素戔嗚すさのお……」


離れたところから監視してるドーベルマンMPMが捉えている映像を見ながらビアンカは呟いた。


「……」


そのビアンカに、ルコアもそっと寄り添う。久利生くりうと一緒に、彼女を支えようとしてくれてる。


ルコアはもう、ただ守られているだけの存在じゃなくなった。牙斬がざんから未来みらいの命も守ってみせた。ルコアももう、<仲間>なんだ。


そしてそんな三人を、あかりが嬉しそうに見守っている。未来みらいはまあ、待ち切れなくて先に夕食にかじりついていたが。


でも、ああ…いい<家族>だなあ……


モニカのカメラを通して、俺もすごく実感した。


素戔嗚すさのおは、彼女達に何をもたらしてくれるんだろう……?


教訓か…?


それとも……




だが、人生ってやつは本当に、思いがけないことがいつだって降りかかってくるよな。


その夜……


きたるが、一人、池で静かに息を引き取った。


まったく何の予兆もなかった。衰えてきてたのは確かでも、食欲もあったし、衰えている中でも元気な様子だった。なのに、きたるの心臓は、突然、鼓動を刻むのをやめてしまったんだ……


きたるの心停止を確認。死亡しました」


そろそろ寝ようかと思っていたところに、コーネリアス号からの通信を受けたセシリアの報告。


「…え……?」


一瞬、意味が理解できなかった。たぶん、俺の脳が、理解することを拒んだんだろうな……


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