ビアンカ編 全力

ところで、きたるが衰えてきているということは、歳の近い、ほまれめいそうかいしんしょう辺りのことも気になるところだ。特に、非常に強いがゆえかやや寿命が短い傾向が見られるマンティアンやアクシーズ、つまり、めいしょうが案じられる。


が、めいしょうについては、確かに歳をとった印象はあるものの、きたるほどの衰えは感じない。


この辺りは、個体差ということだろうか。他のクロコディアに比べてもきたるのそれは少し早い印象があるんだ。


治療カプセルに入ればもう少し詳細が分かるかもしれないものの、本人が嫌がるからな。それに、無理に延命してもひそかのように認知症を患ったりしても逆に申し訳ない気もするし。


無論、長生きはしてほしい。きたるも、血は繋がっていなくても俺にとっては娘も同然の存在だ。しかし、癌も認知症も容易く治療し完治させられる人間(地球人)社会と違って、ここでは、ただ苦しませるだけになる可能性も高い。認知症を患ったひそかの姿は、正直、俺にとってもトラウマではある。




そんなことも頭によぎらせつつ、未来みらいの挑戦を見守る。


それから結局、十分ぐらい未来みらいはビアンカの足と格闘したもののまったく歯が立たず、


「ぷふーっ!」


大きな息を吐いて、その場に座り込んでしまった。


「ふぷーっ! ぷふーっ!」


自身が出せる全力で挑んだんだろう。息を切らしだらだらと滝のように汗をかいて、真っ直ぐ、ビアンカを睨み付けていた。


とは言えそれは、怒りや恨みといった感情からくるものでないのは、どこか笑ってるような、明るい感じの表情からも伝わってくる。


彼はあくまで、自身の全力を用いてもまるで敵わない彼女に、ある種の尊敬の念や憧れを抱いている感じか。


実に微笑ましい光景である。


しかしそれは同時に、彼に対して、やはりこの<群れ>における序列を認識させるものだったと思う。自分の全力がまるで通じないビアンカに対しては、自分は敬意を払わなければいけないと、本能的に察してくれているようだ。


これについてエレクシアも、言う。


「人間も<群れ>を作る動物ですので、本能的には<序列>というものを意識していると唱える専門家もいます。幼い子供が力比べをしたがることがあるのは、まさにそれなのかもしれません。


この時、子供の挑戦を真っ向から受け止め、その全力をもってしてもびくともしない親の強大さを実感させることは、子供の情操教育に非常に重要であるとも、言われています」


俺の考えていたことを裏付けてくれるような彼女のその言葉を、俺もビアンカも久利生くりうも、黙って聞いていたのだった。


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