ビアンカ編 敬える存在

エレクシアは、なおも続ける。


「ただしこの際、気を付けなければいけないのは、子供の自尊心を打ち砕いてしまってはいけないということです。久利生くりうが彼の挑戦を受け流す形でいなしてしまうのは、未来みらいにとっては、自身の存在を受け止めてもらえていないという認識を抱かせる可能性のある対処ではないでしょうか。


無論、今の時点で既に、膂力の面では久利生くりうを上回っていますので止むを得ないものではありますが、未来みらいにとってあまり嬉しいものでないことも事実だと思われます。


それをビアンカが補っているのです。それにより、未来みらいは、ビアンカに対する畏敬の念を抱き、かつ、ビアンカと久利生くりうの関係性を目の当たりにし、久利生くりうが自身よりも遥かに格上の存在であることを認識するに至っているのでしょう。


ここでもし、ビアンカが久利生くりうを軽んじるような振る舞いをすれば、未来みらい久利生くりうに対する評価は地に落ちる可能性が高いかもしれません。


両親の関係性が影響してくるということでしょうね。


ビアンカは未来みらいの実の母親ではありませんが、人間の家庭と見なすのであれば、母親としての役割を担っていると考えられます」


彼女の言うことは、俺にとっては実感しかない。


エレクシアは、俺の群れにおいては<序列一位の嫁>といった立場だった。その彼女が俺に対して(多少の辛辣さはありつつも本質は)丁寧に接してくれてたから、子供達の俺への評価が維持されていたっていうのは確かだと思うんだ。もし、エレクシアが俺を見下し、蔑ろにしていたら、誰も俺の言うことなんて聞いてくれなかったかもしれない。


家庭における父親の権威が失墜するのは、結局、こういう形で起こるんだろうな。


が、ここで勘違いしちゃいけないのは、


『母親に父親を持ち上げさせればいい』


ってわけじゃないということだ。


『内心では父親のことを敬ってない母親に無理にそんな<演技>をさせたところで、早々にボロが出る』


というのも、事実なんだよ。子供もそういうのを敏感に察することが多いそうだ。


つまり、


『演技じゃなく母親が敬える存在であること』


が、父親には求められる感じか。となれば当然、父親も母親を敬ってなけりゃダメってことだな。


だってそうだろう? 自分を敬ってもくれないどころか、<道具>とか<召使い>的に扱われてて、それでも相手を敬えるような<聖人>が、この世にそんなにいるか? って話だし。


『凡人だからそこまでは無理!』


ってことなら、そりゃもう相応の対処するしかない。


自分を敬ってもらいたいなら、相手のことも敬わなきゃ、な。


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