子供は、特に男の子は、＜力比べ＞をしたがる傾向にあるらしい。自身の力を試す目的もあるからだろうか。

それを、ビアンカは疎まない。未来（みらい）が自分と力比べをしたいというのなら、ちゃんとそれに応じてくれる。

これは、人間（地球人）における＜序列の確認作業＞でもあると唱える専門家もいるようだ。こうして自分が今、どの位置にいるかというのを確認しつつ、同時に、自分の存在が受け入れられているかどうかの確認作業でもあると。

ここでしっかりと相手をしてもらえないと自分が受け入れられているという実感が得られず、精神的に不安定になる傾向が見られるんだとか。

その点、ビアンカは、しっかりと未来（みらい）の相手をしてくれる。

ちなみに、単純な力比べではもう父親の久利生（くりう）に勝っていることは承知しているらしい。ただ同時に、自分よりも強いビアンカやハートマンやグレイを従えていることから、格上の存在であることも分かってくれているようだ。

しかも、単純な力では久利生（くりう）を上回る未来（みらい）も、＜組手＞となれば様相は一転する。何度飛び掛っても成す術なく転がされ、力を発揮することさえできないんだ。

ただこれは、今の未来（みらい）にとってはあまり面白くないようで、頻繁にはやらない。それよりも、ビアンカやハートマンやグレイとの単純な力比べが楽しいようだ。真っ向ぶつかり合って勝てないのなら納得もできるみたいだが、なんかよく分からんうちにいいようにされてるのが気に入らないのかもしれない。

ビアンカもしっかりとそれに応じてくれて、丸太のような足を掴んで圧す未来（みらい）を受け止めてくれる。

人間（地球人）の子供として見ればおよそ有り得ない力を発揮する未来（みらい）の圧を感じ、ビアンカも感心する。

「そうそう、もっと、もっとこい！」

彼女に叱咤されて未来（みらい）がさらに力を込めると、足と地面の摩擦が足りずに、ずるずると滑る。と言うか、地面が抉れる。足の指でしっかりと掴むようにしてるからだ。つまり未来（みらい）自身の力が地面との摩擦を上回っているという何よりの証拠でもある。

そんな息子の姿を、來（きたる）は、池の縁に腰を下して、静かに見詰めていた。その様子が、どこか＜お祖母ちゃん＞にも思えてしまう。

衰えがますます進んでいるんだ。

けれど同時に、おそらく＜最後の息子＞になるであろう未来（みらい）の成長に思いを馳せているのかもしれない。

彼女は、分かっているだけでも五人から六人の子を生み、育ててきている。最初の子である当（あたる）さえ、メイガスとの間に生まれたラケシスの他に、数人の子がいるわけで、そういう意味でも本当に＜お祖母ちゃん＞なんだけどな。

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