モニカとハートマン編 功名心

エレクシアが、破損した。これまで、まるでスーパーヒーローのように、どんな相手だろうと、ほとんど無傷で退けてきたはずの彼女が。


彼女が破損した事実に、まずは彼女を傷付けられたことに対する怒りで頭に血が上り、続いて、


『無敵の強さを誇ってきたはずの<要人警護仕様のメイトギアであるエレクシア>がダメージを受けた』


という現実が、俺の背筋を凍らせる。


それはつまり、彼女はもう、<無敵>ではないということだ。きょうみずちがくと強大になっていった<怪物>が、遂にそこまで達してしまったんだ。


正直、エレクシアは、要人警護仕様のメイトギアとしては、弱小メーカー製の二級品だ。<人間(地球人)の世界>に行けば、おそらく彼女では手も足も出ないであろう強力な要人警護仕様のメイトギアもあるし、純粋な戦闘用のロボットともなれば、<最強の要人警護仕様のメイトギア>でさえ、赤ん坊の手を捻るがごとく圧倒するだろう。


だが、ここでは、エレクシアが最強の存在だった。その彼女にいよいよ比肩する怪物が現れようとしてるんだ。


この事実は、俺達にとっては<安全保障上の深刻な問題>である。


しかしともあれ、今は牙斬がざんに対処しなければいけない。


左前腕を失ったエレクシアだったが、それだけなら彼女の戦闘力は大きくは損なわれない。そのように設計されているからだ。必要とあらば足だって手のように器用に使うこともできる。


ロボットだから、人間のように<練習>も必要ない。最初からそれができるようになっている。


なにより、ハートマンやグレイと高度な連携が取れる。二体は、エレクシアの左前腕分の働きをしてくれる。


特にハートマンは、右腕を折られる前以上に激しい攻撃を繰り出していた。


牙斬がざんがエレクシアの動きを学習したように、ハートマンも、ここまでの戦いで牙斬がざんについて学習してきたんだ。


そうやって誘導し、そこにエレクシアが右の掌打を繰り出す。


なのに牙斬がざんも、彼女の掌打を食らいながらも倒れない。インパクトの瞬間に僅かに体を捻って威力を削いでるらしい。殺さないように手加減していることも仇となっている形だ。


けれど、実は、それ自体が彼女の狙いだった。何度かそれを繰り返し、データを蓄積していく。その蓄積したデータを通信によってハートマンに転送。互いの動きをさらに合わせてもいく。


加えて、グレイとも同じことを行い、こちらは<陽動>を担当する。


ロボットであるエレクシアには、人間(地球人)のような功名心はない。『自分が手柄を立てる』という概念がない。発想がない。


<目的>さえ達成できるなら、それを果たすのが自分である必要がないんだよ。


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