モニカとハートマン編 杭

本当に、『これまでの苦労はなんだったんだ?』ってくらいにあっさりとエレクシアが牙斬がざんを取り押さえてしまって、俺は気が抜けてしまっていた。


「改めて人間(地球人)の技術力はとんでもないんだな……」


とも呟いてしまう。


そうだ。人間(地球人)は、光の速さでも何万年も掛かる距離さえ数時間で飛び越え、たった一発のミサイルで惑星すら破壊するほどの技術力を得た。それこそが人間(地球人)の<力>だ。個々の肉体の脆弱さなど、技術の前には実に瑣末な問題なんだ。


牙斬がざんが生物としてどれほど桁外れでも、数万年の距離を飛び越えることも、一撃で惑星を破壊することも、できはしない。要人警護仕様のメイトギアにさえ遠く及ばないドライツェン相手にいい勝負をするのが精一杯なんだからな。


まあ、サーモバリック爆弾を凌いで見せたのには、さすがに背筋が凍ったが。


それでも、これが限界だろう。


久利生くりうは軍人らしくまだ気を抜いていないものの、俺もシモーヌも完全に安堵していた。終わった気になっていた。なにしろ、エレクシアが腰に着けたポシェットから麻酔のアンプルを取り出し、力尽くで牙斬がざんの口に捻じ込もうとしてたからな。


そうだ。これで終わりなんだ。牙斬がざんがいくらもがいても、もう何もできない。がくはあくまであの巨体があればこそ、エレクシアとメイフェアとイレーネの猛攻に耐えることができただけだ。


なのにその時、


「っ!?」


エレクシアが飛び退いた。飛び退こうとした。


ガキャッッ!!


という嫌な音と共に。


「え……?」


「はい……?」


俺とシモーヌは、ドローンが捉えた映像の中で何が起こったのかをすぐに理解できなかったが、あかりは察したようだった。


牙斬がざん…っ! なんてヤツ……!」


唸るようなあかりの言葉でようやく、牙斬がざんが何かをしたんだと俺も理解することができた。そして、飛び退いて身構えたエレクシアの姿に、強烈な違和感。


いや、彼女の<左腕>に、か。


エレクシアの左腕の形がおかしいんだ。彼女の左腕から何か、鋭いものが生えていて。


……違う…! 何かが彼女の左腕を貫いているんだと、俺はようやく理解した。そこに、


牙斬がざんの攻撃です。左前腕部を破損。機能しません」


エレクシアからの報告。とても冷静で冷淡で、いつもの彼女とまったく変わらない、けれど、これまで聞いたことのないそれが俺の頭に染み込んでくるまでに、たっぷり数秒の時間を要しただろう。そんな俺に、エレクシアが補足説明を。


牙斬がざんが、自身が発生する強力な電磁力によって、右前腕部の<尺骨>をパイルとして射出したものと推定」


……は? はあ……!?


右前腕部の<尺骨>を…? 


パイルとして射出した……?


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