モニカとハートマン編 なんともな能力

二機の<廉価版ドローン>が立て続けに撃墜されたことを受け、久利生くりうはさらに、


「三番、四番、それぞれ夷嶽いがくと百十メートルの距離を保ちつつ左右から回り込め」


と指示を出し、俺がそれを追認する。


少々面倒な手順ではあるものの、久利生くりうが<人間(地球人)>と認識されていない以上は、やむを得ない。この辺りの融通の利かなさは、AIが人間に対して反抗的になることを防ぐ<セーフティ>の役目もあるから、省けないんだ。


しかし、久利生くりうがそれも承知の上で端的に指示を出してくれるから、ロスは最低限で済んでると思う。


なんてこともありつつ、三番と四番の<廉価版ドローン>が夷嶽いがくを挟み込むようにして回り込む。


夷嶽いがくはそれを警戒しつつ頭を交互に向ける。が、撃ってはこない。


「どうやら、有効射程は百メートルといったところのようだな」


久利生くりうが告げる。そして、


「では、秒速一メートルで夷嶽いがくに接近」


改めて指示を出す。


と、確かに百メートルを切ったところで四番からの信号が途絶え、続けて三番の信号が途絶えた。その間、三秒。


一番と二番が撃墜された時にも、約三秒の間隔があった。


「連射能力はそう高くないか。約三秒のラグがあると推測できる」


そうして改めて映像を詳細に解析すると、


「口がわずかに開かれて、そこから舌先のようなものが覗いているな」


久利生くりうの言葉通り、夷嶽いがくの口が少しだけ開かれた隙間から、赤っぽいものが覗いているのが分かった。そして、そこから白い何かが発射される瞬間が確認できた。


「なるほど。舌を筒状にして吹き矢の要領で何かを発射してるのか」


俺にもそれが察せられる。


するとシモーヌが、


「一口に<吹き矢>と言っても、あの巨体を支える強靭な肺機能を備えた夷嶽いがくのそれだからこそ、<狩猟用空気銃>を上回る威力を実現できるんだと思う。そして、<弾丸>として撃ち出されているのは、おそらく、<牙>でしょうね。がくの遺伝子を解析してシミュレーションすると、地球のサメと同じく牙が何度でも生え変わるのが分かった。それによって抜け落ちた牙を弾丸に利用してると」


そう解説してくれた。


なるほど、タネが割れてしまえば単純なものだとはいえ、なんともな能力を身に付けたもんだ。


やはり、倒すごとに強力になっていくと考えた方がいいかもしれない。


正直、今回のそれは、対処すること自体はそんなに難しくない。<狩猟用空気銃>程度の威力なら、カメラやAIを収納している部分にカバーを付ければ十分に防御可能だ。この程度の<強化>で済んだとすれば、幸いだったよ。


ただし、夷嶽いがくの能力がそれだけとはまだ判明していないから、慎重に当たらなければいけないのは変わらないが。


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