モニカとハートマン編 次善の策

「なるべく倒さずに、こちらから離れるように誘導するというのが基本方針ということでいいんだな?」


久利生くりうが改めて確認してくるので、


「ああ。そうだ。きょうみずちがく、そして今回の夷嶽いがくと、倒すごとに強大になっていくのはほぼ間違いないと思うんだ。所詮は生物といえど、こちらの戦力も無尽蔵じゃない以上、リスクを増やすことはしたくない」


きっぱりと告げた。それに対して久利生くりうも、


「僕もその意見には賛成だ。軍という機構は、脅威から市民を守るために機能しているが、だからといって問答無用で攻撃し撃破を目指せばいいというわけじゃない。戦わずして脅威に対処できればそれに越したことはないんだ」


と。これについては俺も本当に助かってる。フィクションなんかだととにかく強硬に脅威を撃破することを主張したりするのが軍人の役どころだったりするものの、現実の軍人はそういうのばかりとは限らない。と言うか、<パワーバランス>というものもれっきとした<戦略>なわけで、『いつでも攻撃できるぞ』というポーズを見せる必要はあっても、それを実行に移すかどうかはまた別の判断だからな。


これをわきまえてないと、軍人がいつでもどんな時でもただひたすら武力を行使することばかりを考えてると誤解するんだろう。


軍隊を毛嫌いする人間にとっては、軍人がそういう<野蛮な奴ら>でいてもらわないと、批判するための根拠が薄れてしまうのかもしれないけどな。


だが、ここのように、紛れもない<命の危険>が身近な場所では、<戦いへの備え>を疎かにするのはそれ自体が自殺行為だ。こちらから仕掛ける必要はなくても、危険に対処しなくていいという道理はない。


そして久利生くりうは、そのことをわきまえている軍人だった。


「僕としても錬是れんぜの方針には従うが、万が一を想定しないわけにも行かないから、グレイ、ハートマン、そしてドーベルマンMPMによって電磁加速質量砲レールガンの運用を具申したい。エレクシアと電磁加速質量砲レールガン一丁での撃破はできなかった事実を踏まえて、コーネリアス号に装備されている電磁加速質量砲レールガン三丁をすべて使い、飽和攻撃の準備も行いたいんだ」


久利生くりうの意見具申に、俺も、


「つまり、電磁加速質量砲レールガン三丁で、どう躱そうと逃げ切れないように面攻撃を行うということだな?」


と確認する。


「そういうことだ。もちろん、三丁だけでは完全な飽和攻撃にはならないとしても、撃破の確率は跳ね上がるはずだからな」


「分かった。俺も、他にどうしようもない場合でまで撃破に反対する気はないんだ。万が一に備えてということであれば、了承する」


「ありがとう。感謝する」


こうして、誘導が上手くいかずにコーネリアス号に向かうようであれば対処するための<次善の策>についても、準備することになったのだった。


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